【初期acg:アウトドア・クロストレーニングモデル】

1991年、ナイキはMTB、クロスカントリー、ロッククライミングといった今までの登山靴では対応できない新しいアウトドアスポーツを総称して「アウトドア・クロストレーニング」という新スポーツカテゴリーを提案する。同時に、その新スポーツカテゴリーのためのブランド、 acg(オール コンディションズ ギア)を設立した。


AIR MOWABB

 '91年に、既存のアウトドアシューズでは対応出来ない、様々なアウトドアスポーツに対応する靴として生まれたのがこの「エア・モワブ」だ。

 当時NIKEの最新鋭ハイテク、ハラチシステムや、アウトドアクロストレーニングを想定し、ヒールだけでなくフォアフットにも搭載されたエア、軽量で耐久性のあるファイロン製ミッドソールなどを備えたこのモデルの定価は、\22,000。NIKEがいかに acgに力を込めていたかが伺える作品である。

 完成度が非常に高く、初期acgの中では比較的手に入れやすいこの靴を初めて履いて、初期acgの機能性の高さ、デザインの素晴らしさに魅せられる人も多い。すべてはこの 一足からはじまった。


AIR MOWABB PLUS (LIMITED EDITION)

 '91年にacgのカテゴリー化とともに発表された記念碑的モデル、「エア・モワブ」の改良版。
 
ハラチマークと履き口のストラップ以外は靴自体に変更はないが、わずかな変更点で驚くほど履きやすく改良されている。アゾーナやリバデルチに比べると安定性は劣るが優しいフィット感が魅力。
 アウトドア・クロストレーニングシューズの代表モデルであり、初期 acgの中では知名度も高い。

 

 

 

 こちらはもう一つのリミテッドカラー、ベージュ×ダークグレー。
 この2つのモデルの品番はどちらも675000で、acg初のリミテッドモデルである。この時代の限定モデルには「LIMITED EDITION」と書かれた革製のタグが付属している。
 独特な色使いの初期 acgだが、リミテッドカラーは落ち着いた配色となっている。


AIR AZONA 

 アウトドアらしい配色と、履きこむと味が出るヌバックレザーのアッパーが人気の アゾーナ。このモデルもハラチシステム装備で、履き心地は非常に良い。

  リバデルチやモワブと並ぶ初期acgを代表するモデルだが、このアゾーナは特に甲高で幅広な足の人でも履きやすい。リバデルチと同じく、激しい運動でも履き心地に違和感を与えない 、小型のトゥーガードを装備し、運動性と安全性を両立している。これに対して現在のACGモデルの多くは、トゥーガードが大きすぎて、つま先の自由が失われ、初期acgと比較すると運動性能の低いモデルが多い。


AIR REVADERCHI

 数あるNIKEシューズの中でもかなり希少なモデルであるリバデルチ。履けるサイズを見つけるのは至難の技で、特にこの後発のダークグレー×ブラックは発売されたのがごく短期間で あったため、非常にレアである。ハラチシステムに加え、独自の可動式ヒールカウンターが生む履き心地は、これ以外の靴を履く気が失せるほどであり、足との比類なき一体感が味わえる。同時にローカットシューズとは思えないずば抜けた安定性を生んだ。

 メンズカラーが2色、レディースカラーが1色存在するが、ダークグレー×ブラックだけ紐が2色使いになっており、履きこむと黒い斑点の部分が茶色になる。


AIR TERRA acg

 現在のナイキのトレイルランニングに多くみられるテラシリーズの源流となったモデル。ファイロンミッドソールを搭載し、初期 acgの中でも軽量モデルである。
 その完成度の高さは、現在のトレイルランニングモデルと比較しても、何ら劣る点は無く、むしろこちらの方が走りやすいのではないだろうかと感じる。奇抜な配色も、今なら 支持されるかもしれない。シュータンのデザインも面白く、ヒールには初期acgロゴが堂々と入っている。画像は日本未発売カラー。

 


AIR YEWTAH

 初期acgでは珍しく、スウォッシュが付いたモデルである。マウンテンバイクに適した構造をしているが、ソール形状を見る限りはユタ2ほど専門的な色合いは無い。履き口はハラチシステムではないがライクラ素材で、ペダリング時にも足首の動きを妨げない。

 モワブ・プラスと同じく、レザー仕様のリミテッドが存在する。ちなみに画像のモデルはレディースカラーである。

 


AIR YEWTAHU
 

 スエードのアッパーが上品なマウンテンバイクでの使用を中心に作られたシューズ。ソールパターンにもその形跡がうかがえ、履いた感じも、他のacgよりソールが薄く、それでいて硬い感じがする。また、普通のMTB用シューズと違い、MTBを降りてトレイルランニングやハイキングなど、多目的な使い方が出来るのも初期 acgらしい。

 モワブUと同じ'93年度モデルの中ではひときわ目立つ秀作。ユタに限って、TよりUの方がフィット感が良く、アウトドアクロストレーニングシューズとしての完成度が高い。初期 acgの中では比較的オーソドックスな形であり、ファッションからスポーツまで幅広い層に支持された。ショップ別注カラーをはじめ日本未発売カラーも多い。

 


AIR MOWABBU

 エア・モワブプラスの後継機種として、‘93年に登場した。同時に、アゾーナU、リバデルチUも発売されたが、これらの靴は、 いずれも前作の人気と機能性を大幅に下回ることとなった。
 前作との一番の変更点は、ハラチシステムではなく、ダイナミックフィットシステムを採用した点。ハラチが足全体を包み込むようなフィット感であったのに対し、この新システムは、足の甲のフィットだけに重点が置かれたシステムであり、かかと周辺のサポート力が皆無であった。普通の靴の方がよっぽどフィット感は良い。素材にも前作よりコストダウンが図られている。
 名作揃いの’92年に比較し、‘93年度モデルはこのモワブ2やリバデルチ2といったハイグレードモデルが駄作であったため、’93年を最後に、アウトドア・クロストレーニングモデルの時代は終わることとなった。翌年に大ヒットしたエア・マーダは、以降のハイキング色の強いACGの時代を予感させるものであった。


AIR REVADERCHIU

 レベルの高かった'92年モデルの翌年に登場した、'93年発売アウトドアクロストレーニング acgのトップモデル、リバデルチ2。

 前作リバデルチはかなりの高級モデル扱いで生産数も少なく、発売当初からプレミアが付いたのに対し、翌年に発売されたリバデルチ2はデザインも機能も平凡なモデルだったのであまりヒットしなかった。

 色使いは初期の acgらしいが、履き心地に関してはあの傑作シューズの二代目の名を与えるにふさわしくない出来である。それゆえ前作とは逆に、現在でも古着屋などで見つかりやすい。市場は靴の出来に素直である。

 


AIR REVADERCHIU (SAMPLE COLOR)

 '90年代初期のナイキシューズには、実際には販売されることのなかった、独特のカラーリングを持ったサンプルモデルが多く存在する。その中でも特に際立つのがこのリバデルチ2のサンプルだ。木目調のアッパーと淡い色調のヒールカウンターが、何ともトロピカルな雰囲気を持たせている。

  カラーリングだけでなく、踵のパーツ等は、実際に販売されたものと異なり、モワブなどのハラチシステム搭載モデルと同じ素材が採用されている。このため、どちらかというと'92年モデルに近い印象で、まさに試作版であったことが伺える。全体的なバランスも、サンプルモデルのほうが良いのではないだろうか。

 


AIR AZONAU

 MOWABBU、REVADERCHIUとともに'93年度に発売されたアウトドアクロストレーニングacgの中では後発の発売となったAZONAU 。

 非常に履き心地の良かった前作とは違い、いたって平凡な履き心地の靴である。また、前作とは違い、ソールがポリウレタン製なので、現在では 加水分解により履ける状態のものは少ない。 しかし、ダイナミックフィットや、シューレースなどに見られる色使いの良さは、さすが所期acgといえる。

 この靴の発売時には、先に発売されていたMOWABBUやREVADERCHIUは既に安値で叩き売られている時期で、発売当初からおよそ¥5,000円で売られていた。 


AIR RHYOLITE

‘93年の秋にハイキング系ACGの最高級モデルとして登場したリオライト。その後市場からあっという間に姿を消し、現在では高いプレミアが付いている。

 踵周りの作りが絶妙で、靴の内側を柔軟なレザー張りにしたことで、バッシュなど多くのハイカットモデルに見られるナイロン性の内張りでは不可能であった足の凹凸に対する高いフィット力を持つ。

 色は2種類あり、ブラウンの方が人気があるが、私は普通の登山靴には無い色、グリーンのモデルをお勧めする。NIKEらしさ、ACGらしさというのはそういうことである。リバデルチと同じく発売された期間が短かった。

 


AIR WHYOMIN

  リバデルチTからハラチシステムや独特なヒールカウンターを取り除き、普通のミッドカットにしてコストを抑えた、リバデルチの廉価モデル。

 ミッドソールもポリウレタンに変更されコストダウンが図られてているが、アウトソールはリバデルチと同型である。アッパーの形もリバデルチに似ていることから、人気が高い。履き心地に関しては、いたって平凡であり、ハラチシステムの偉大さが身にしみて分かる。ただ、アウトソールはリバデルチと同じなので、接地感は近いものがある。


 

AIR ESCAPETLO

エア・モワブの廉価バージョン。

 日本に acgが初上陸した時から当時のラインナップに加えられていた。アッパーやソールなど、所々にモワブの面影が漂うが、ハラチシステムが無い、前足部にエアが搭載されてない、爪先のアッパーとアウトソールの接合点が縫われていない、ミッドソールがポリウレタンである、など、作りの簡略化が計られている。

 しかし、タンとアッパーが一体化されているなど、実践的な面も見られ、またデザイン的にベーシックであるためか、acgでは珍しく当時から受け入れられたようで、実に多彩なカラーバリエーションが存在する。ミッドカットもある。インソールにモデルロゴとともに書かれた、「outdoor cross trainer」の文字が泣かせる。

 


AIR SUPERDOME

  アウトドアクロストレーニングの概念でacgがカテゴリー化する前から存在したスノートレッキング用シューズ。

acg発足当時もバルトロなどのトレッキングシリーズがあったのだが、このシューズはacgに所属していた。シュータンに大きくacgロゴが入っているため、仕方なく acgに入ったようである。

 防水・透湿性能を備えたゴアテックスブーティーを採用し、エアはフルレングスタイプ。快適に雪道を歩ける設計となっている。

 


 

LAVA CREST

  '92年に登場したが、acgではなくナイキアウトドアとして発売された。

 エアは搭載されていないが、ソール構成はあのacgトレッキングの名作リオライトと同様であり、見た目とは裏腹に非常に歩きやすい。この靴のHIカットバージョンにキボという靴が存在する。acg同様ナイキトレッキングも、ラバドームの時代からの進化を感じずにはいられない。