【acg(オール・コンディションズ・ギア)とは?】

 ACG(ALL CONDITIONS GEAR)とは、スポーツ&フィットネスカンパニー「NIKE(ナイキ)」のアウトドア部門を 担うブランドです。'91年にナイキ社のひとつのカテゴリーとして発足し、本格的にスタートしました。
 しかし、私が好きになった発足当時の acgは今とは異なり、ナイキのアウトドア部門ではなく、「アウトドアクロストレーニング部門」でした。NIKEのアウトドア部門はacgとは別に存在したのです。

※ロゴマークは'89年に誕生したが、当時は「全天候型シューズ」を意味しているだけで、他ラインナップと比較し明確な線引きはなかった

初期acgの靴箱。側面には「OUTDOOR CROSS TRAINING」と刻印されている

アウトドアクロストレーニングブランド:acg
 アウトドアクロストレーニングとは、ハイスピードなトレーニングを必要とする新しいアウトドアスポーツの総称で、クロスカントリーやマウンテンバイク、パラグライダーなどが含まれます。そして、これらのスポーツを一足ですべてカバーしてしまおうというコンセプトで acgは始まりました。

 もちろん、そのコンセプトによって生まれたアウトドアクロストレーニングシューズは、すべてのアウトドアスポーツに必要な要素を取り入れようとしたため、トレッキングにおけるトレッキング専用シューズや、MTBにおけるMTB専用シューズに比較し、その 特定スポーツ種目だけに対する機能性は劣ります。しかし、アウトドアと日常生活が融合したアメリカ合衆国(ナイキの本社が存在します)において、特定のアウトドアスポーツのために靴を何足も用意しないで済むアウトドアクロストレーニングシューズは必要であったのです。そして、そのアウトドアにおける汎用性は、スポーツシューズをスニーカーとして、普段さまざまな場面で履く我々にとって、最も適した機能であったのです。

 アウトドアクロストレーニングは、インドアクロストレーニング部門で成功したナイキが、更なる市場の拡大を目指した戦略のひとつとして提案されたジャンルではありますが、 acgのような靴はacgが出来るまで存在しなかったこと、また、現在ではacgのライバルブランドが多く存在することからも、その需要は確かなものがあったのでしょう。

 よって、発足当時のacgは、既存のアウトドアシューズとは一線を画した、画期的なデザイン、機能性を持ったものが多い のです。そして現在のACGともまた異なるタイプのスポーツシューズです。スニーカーの長い歴史においても初期 acgモデルは、名品と謳われ、高い評価を受けています。残念ながら現在では入手はとても難しくなりました。

現行スニーカーの履き心地を遥かに凌駕する初期acg
 なぜ私が初期のacgを好きなのかといえば、その外見的なかっこよさも然ることながら、何と言っても履き心地です。新しく発売される靴を買う気がしなくなるくらい、現在の靴よりもずっと 良いです。そして、いろいろなアウトドアスポーツに対応する汎用性も気に入ってます。「これ一足で、どこへでも行ける」という気にさせてくれるのです。そして、色の使い方も非常に面白く、今のスニーカーには無いセンスがあります。スポーツシューズとしての機能のみを追求した妥協の無いデザイン、そして色使いのみで勝負しているファッション性。今のスポーツメーカーが忘れかけている、スポーツシューズの本来有るべき姿を具現化しているブランドといえました。

 初期acgの先進性は、シューズだけでなくウェアにも見られ、当時の最先端技術や、独特のデザイン、色使いがみられる個性的なウェアがあります。


acgのシューズボックスの変遷
)ナイキの気まぐれで、多少年代が前後して違う箱で販売されたものもあります。
  例:リバデルチのファーストカラーがBの箱で販売されたこともアリ。


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acgカテゴリー化以前の、NIKEの靴箱。ワイルドウッドacg、テラacg、スーパードームacgなどはこの箱に入っていた。acg専用の箱はまだ無かった。

 

アウトドアクロストレーニングacgがカテゴリー化したときの靴箱('91年)。リサイクルペーパー製で、天蓋にはacgロゴ、側面には「OUTDOOR CROSS TRAINING」の刻印。モワブから、リバデルチのファーストカラーまではこの箱。

  '92年FWから底が黒い箱へ。天蓋はNIKEロゴだが、側面にはacgロゴと、「ALL CONDITIONS GEAR」ネームがプリントで入る。リバデルチのセカンドカラーから、マーダまで。
     

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'95年FW辺りから、天蓋は現在のように底と一体型になり、第二期ロゴが入った。側面は等高線のような模様 で、アウトドア指向を意識させる。この時期はACGがアウトドア全般を扱うようになり、箱側面にはそういった趣旨の文章がプリントされている。

 

'96年フォール辺りから、ACG専用の箱は無くなり、ステッカーで区別されるだけになってしまった。ステッカーは一応第三期ロゴになっている。HATAKEは、この頃のしょっぱいACGとハイテクブームに憤慨し、若気の至りでHATAKE'S ACG WORLDを創造することに。


現在のACG】

 現在のACGは、本格的なトレッキングを中心とした、アウトドアスポーツ全般を扱うブランドへと成長しました。また、室内用サンダルなどのコンフォートシューズや、'90年代後期に入って急激に市場を伸ばしたエクストリームスポーツへの対応も視野に入れるまでになりました。逆にいえば、発足当時の acgが持っていた強烈なインパクトは無くなり、普通のアウトドアブランドになってしまったともいえます。ブランドのロゴも移り変わり、現在は3代目となりました。

 初期のモデルには、名品が多いと述べましたが、純粋なアウトドアブランドとしてみるなら、現在のACGには優れたアウトドアシューズが多数存在します。ズームエアやフットスケープラストなど、新機能を盛り込むことにも意欲的で、そのチャレンジ精神は今も健在で、これからも目が放せません。しかし、一部にクイックシューレーシングシステムを採用したり、ビジブルエアを搭載したモデルが出てしまったのも事実で、いささか軟派になってしまいました。機能を追い求めるスポーツシューズにこれらのものは必要なのでしょうか?


【スニーカーマニアから見た acgの魅力とは?】

 はっきり言って、エアマックス'95から始まった近年のハイテクスニーカーブームの中で、acgはカヤの外だったといえる。ブームに飛びついてスニーカーを好きになった人からは、 acgは全く相手にされなかった。当時のインターネットにおいても、acgは全く話題に上らなかった。どこのHPでも話題は当時爆発的に流行った新作のハイテクスニーカーの話題 だけで、ヴィンテージの話題さえ無い単純な世界だった。

 だが、現在、マニアから人気があり、レアで、ヴィンテージショップなどでは高いプレミアの付いてるacgは、ほとんどが'92年前後に発売された「初期acg」と分類されるモデルばかりなのである。ブーム以降のファンが知るはずも無い。つまり、初期 acgを履く人は昔からのスニーカーマニアか、良い物を見抜く目のある人か、あるいは古着屋などでたまたま見つけて自分のスタイルに取り入れているおしゃれな人のいずれかに属するといえる。流行りモノを履いてる人は、それこそ、普通の人からかなりのマニアまで幅広い人がいるだろうが、今時ハラチマークを付けた初期の acgを履いてる人を見かけたら、「こいつはタダ者ではない」と思っていい。そのくらい履いている人は居ない。人気が無いから履いている人が少ないのではない。現存する初期 acgが少ないのである。

 また、ブーム以降にスニーカーに興味を持った人が、たまたま初期acgを見つけ、履いたところ、その履き心地の良さに驚いた、という話がインターネットでもたびたび聞かれるようになった。雑誌で取り上げられることはあまり無かったが、口コミで初期 acgの人気は広がっていった。

 現在、ナイキが威信をかけて取り組んでいる、「アルファプロジェクト」がある。初期acgからおよそ10年も経過したそれらのモデルには、ハラチシステムのようなインナー素材や、可動式のヒールカウンター など、初期acgのテクノロジーが投入されているモデルも登場している。これらを見ても、初期acgのスポーツシューズとしての完成度の高さが裏付けられている。

 ファッションアイテムとしてのスタイルも抜群だ。初期acgは、洗練されたムダの無い機能的なデザインが特徴だ。しかも、初期のモデルに見られる「中間色+原色」の色使いはハイテクスニーカーでありながら古着ファッションにも良くマッチし、ファッションの世界でも、ヴィンテージスニーカーに変わる新しい風となっている。アウトドア、あるいはヘビーデューティーなスタイルにおいては、 パタゴニアやグレゴリーと並んでマストアイテムのひとつである。

 しかも、初期のacgモデルは生産数が少ない。当時、発売されてからお店で一回在庫が無くなったら、再入荷なんて事は無かった。それくらい生産数が少なかったのである。

つまり、「珍しくて、カッコ良くて、履き心地がいい」!三拍子揃った、こんなおいしいスニーカー滅多に無いぞ!


【それでも初期acgを今から手に入れることを薦めるわけではない】

このHPを立ち上げた頃、コラムでも述べているとおり、暴走的なハイテクスニーカーブームの真っ最中であり、インターネットはマスコミによって作られた価値観しか存在しない世界であった。大事なのは、その頃はまだ 。今より初期 acgは手に入れやすく、誰もが手に入れるチャンスがあったということである。そして、それにもかかわらず、雑誌で取り上げなければ欲しがる人は居なかった、ということだ。近年になって、雑誌などで初期 acgの特集が組まれるようになり、そうなってからこのHPのアクセス数もぐっと増えた。忘れないで欲しい。現在販売されているスニーカー(ACGに限らない)でも、雑誌などで取り上げられて流行ることが無くても、この先人気が出るスニーカーがいっぱいあるということである。自分の価値観を持ち、自分が気に入ったスニーカーを選び、履こう。