「今日は、稲刈りできるのかなぁ。」
バスを降り、乾ききっていない路面を見て心配になる。
「大丈夫だよ。案内が出ているから。」
鈴木さんに言われて、目をやると、酒一筋の案内板の下に、ダンボールが貼ってあり、以下ように書いてある。
「赤磐雄町米 稲刈り遊び ご自由に参加下さい」
「遊びなら真剣にやらないといけないなぁ。」と、鈴木さん。
「こなすだけじゃ、だめということですね。」と、私(中川)。
案内に安心し、木陰浮月粋人盃一同(鈴木さん、小泉さん、私)、利守酒造へと向かう。私は、かれこれ、7回目の訪問になる。蔵の前には、木陰浮月粋人盃の田植・稲刈りの大先輩の石毛夫妻が先に着いている。
蔵では、副社長(社長の奥さん)、信ちゃん(利守信行さん)が迎えてくれる。今日は、社長と部長(利守弘充さん)は、仕事で出ているそうだ。信ちゃんは、9月末まで東京方面の営業をやっていたが、今は、酒一筋の仕込みを手伝っている。ちょうど、「かたつむり」の仕込みが一段落ついたところだそうだ。
私たちが着いて、5分としないうちに、地元の酒一筋ファンや大阪からの人たちなど、次々とやってくる。田植のときほどではないが、お蔵の人を除いて20人以上の酒ファンが集まる。
開始の時間になり、田村杜氏から挨拶がある。
「今年は、豊作です。農家の人には、肥料を押さえて、少々量が減っても良質の赤磐雄町をとお願いしとるのですが、なかなかうまいようにはいきません。」
「今日稲刈りする稲は、収穫量は他の田圃より少ないですが、その分、いい米ができとると思っとります。」
「くれぐれも、ケガだけはせんようにお願いします。刈り方は、田圃の方で説明しますから。」
なんども、「ケガだけは!」と強調される。稲刈り遊びだからこそ、真剣にやってケガをしないようにせねば!と誓い田圃へと向かう。
田圃では、稲穂の重さでこうべをたれまくっている、赤磐雄町たちが、私たちを迎えてくれる。稲の丈は、私の胸くらい、約130センチといったところだろうか。鳥の羽の翼のような形の田圃ということもあり、機械(コンバイン?)の入れない、端の方の稲を、皆で手分けして刈る。
稲の刈り方は、
・左手は、稲を引っこ抜くように持つのではなく。その逆で親指が上になるようにして稲をつかむ。
・かまは、右手で持ち、根元に引っかけて、まわすようにすると力を入れずとも刈れる。
・4〜5束続けて刈って、まとめて脇に置く。
(田村杜氏他、慣れた人たちの早いことといったらもう・・・)
・上記を、2回か3回行いそれぞれの束を重ね、重ねたところをわらで結わえる。
・わらは、乾燥させたものを、切れにくくするために、ざっと水をかけたもので、適度に柔らかい。
・結わえる時は、束をひざに乗っけて、わらを二重に巻き、わらを引っ張るのではなく、稲の束を押すようにすると良く締まる。
・わらをねじって、二重に巻いたあたりに差し込んで、出来あがり。
蔵の人たちら経験者に教えてもらいながら、稲を刈り始める。稲を刈るのは、結構すぐに慣れるのだが、わらで束ねるのがなかなか速く出来ない。あきらめて、丁寧にやることに専念する。
「私が田植えしたのはこの辺なんですよ。あの電柱が目印です。」と小泉さん。
「じゃぁ、私はその隣で植えてたからこのあたりだ。」
小泉さん、覚えていてくれてありがとうございます。
田圃の端の方の稲を刈るはずが、ついつい、内側まで刈り進んでしまう。
「一本、抜いて貰っていっていいですか?」「かまいませんよ!」
地元の人のやり取りがうらやましい。私も担いで帰ろうかと悩むが、結局あきらめる。
「あっ!!稲穂を踏んじゃった!!もったいない!!」
皆、稲穂が酒に見えているようだ。拾い集め、稲の束に加える。田圃の脇に重ねて積まれている稲穂には、なかなか風格がある。
田圃にコンバイン?(稲刈りして脱穀する機械)が入り、中の方も刈り進む。その頃には、田圃のふちの方は、ほとんど刈り終わっている。田圃の脇の川辺には、大きな青いシートが敷かれて、昼食&酒の用意が始まる。
おにぎりに、田村杜氏が育てたワサビと大吟醸粕で作ったワサビ漬を合わせ、ほおばる。田植酒と、定番大吟の赤磐雄町とあわせて、幸せな気分になる。日が照り始めたが、風が涼しく、青空で呑むにはもってこいの陽気である。お蔵の人たちを交えて、酒談義でもりあがる。
「昔は、裏山を歩くと、踏んでしまうくらい松茸があったが、松食い虫にやられちゃって。」・・・これは、松茸談義。
などをしているうちに、川崎から海鮮山觧の栄治さんが、到着する。
「秘伝の生が届いた時は、まだ若かったのが、たったの一週間でまとまりが出てきて、一ヶ月くらいでいい呑み頃になりましたよ。」と粋人盃の面々。
「出荷した後の変化の話は、なかなか聞けないので興味があります。」
とは、ベテラン蔵人の荒手さんの弁。最近行われた岡山県の利酒大会で、一位になったそうである。
「以前、お会いした時に、料理屋にあった酒一筋を呑んで、設計図と違う!と言っておられましたよね。」と私。
「全然、覚えてないです。」と荒手さん。
こうしている間に、コンバインでの刈り取りも終わったようだ。
蔵に戻ってからも、今年から蔵に入った信ちゃんから、造りの話を聞く。
「私も夜中2時間おきに麹をチェックしたんですよ。」と信ちゃん。
「味が落ちてたらどうする?」と意地悪な粋人盃メンバー。
「うまくなってたらどうするんですか?」
「喜んで、呑む!」
そういえば石毛さん夫妻がいないな、と思っていると、しばらくして現れる。
「皆で刈り取った分の脱穀も終わりました。」
しまった。田圃には、まだ仕事が残っていたのか。そういえば、2年前、稲刈りに遅刻した時の午後も、作業をやっていたのを忘れていた。
「さすが石毛さん!でも誘ってくれればいいのに!」と文句を言う。
その後、お酒を物色し、自然酒など数本を、石澤酒店に送ってもらうようにお願いする。
稲刈りの美味しいところだけ遊ばしてもらったうえ、長居してしまい、申しわけありませんでした。来年出来上がるお酒を楽しみにしています。
ありがとうございました。
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