二日目は、菊姫さん、3千円くらいの酒ばかり飲んでいる頃に、山廃純米酒を好んで呑んでいた蔵である。
結構回りにもファンは多い。今は、海鮮山觧で落ち着いてくると、加陽菊酒を良く飲む。
酔いの進むほどに飲みたくなるお酒である。
北鉄石川線中鶴来駅から10分ちょっと、萬歳楽さんの前を通りすぎると、菊姫のビル(平成蔵)がでんと構えている。
母屋の入り口で、菊姫の初代酒マイスターの村本さんが迎えてくださる。
「まずはこちらへ」と平成蔵へと案内される。入り口を入ると、立派なしめ縄が目に入る。
吉川町特A地区山田錦の稲穂で作られているそうだ。
「背丈が高いんで良いのが作りやすいんです。」
しめ縄の下をくぐりぬけ、エレベーターで7階に向かう。エレベータの止まるのは、1,3,5,6,7階で、
1,2階と、3,4階は、仕込みタンクがあるため、2フロアぶち抜きとなっている。
ティスティングルームは、会議室といった感じ。白衣と帽子を身につけ、見学に向かう。
まず7階は、精米されたお米の搬入、洗米、吸水を行うフロア。
ちょうど、P箱くらいのプラスチックの容器を、マイスターの女性が洗っていた。
道具は、ささら?、昔ながらの感じが、良くとけこんでいる。
続いて6階、麹蓋が、ところ狭しと積まれている。ちょうど、麹蓋の修理を行っているところだった。
麹蓋を作る職人さんが、もう引退するとかで、新品は入手が難しいらしい。
「どれくらいの間、使えるのもですか?」と聞くと、
「修理して使っているうちに、丸々入れ替わったりするので、良く分からない。」とのことであった。
隣には、かなり広い麹室がある。
中は、4部屋に仕切られていて、外にあるコントロールパネルで、それぞれ、違う温度にすることが出来るそうだ。
中には、天窓もあり、外気の通っているパイプがあったりして、昔ながらの調整も出来るようになっている。
ここでも、古いものと新しいものが共存している。
5階には、酒母室があるが、今はもう終わっているそうだ。ここで、平成蔵の松本杜氏とすれ違う。
若い。(と言っても私より年上だが)36歳で今年で杜氏3年目だそうだ。
4階から1階には、1tのタンクずらりと並ぶ。石澤さんが「全部1tだぜ。すげーよ。」
と常日頃から言っているタンク群である。たくさんすぎて普通に見えるが、小さいよなぁ!多いよなぁ!と思う。
1階のタンクの脇を摺り抜け、平成蔵を出ると、明治蔵へとつながっている。
まずは通り抜け、瓶詰めラインを見せていただく。
窒素封入機まであり、大手の蔵の一部を切り取ってきたかのようである。
生産量に比べると、実際のラインの能力はたかいそうで、何事も余裕がないと良いものは出来ないという考えからだそうだ。
税務署の担当者からは過剰投資じゃないの?とつっこまれるらしい。
続いて明治蔵の仕込みタンクを見せていただく。ここも、1tの開放タンクである。
(容積からいくらか引いて3で割ると、だいたいの仕込み量になるそうだ。)
もろみは、いつ見ても楽しい。泡の様子も千差万別である。
タンクの横には、泡の状態が記録されている。「ボコボコ」「まさしく高泡」「まだまだ」などの文字が躍る。
後で松本杜氏に聞いたところ、明治蔵の頭によるものだそうだ。「まさしく高泡」、見てみたい!
続いてしぼりの工程を見せていただく。山廃吟醸のあらばしりを取っている最中であった。
醪の入った袋も、作っている所が、やめちゃうみたいで、最後にたくさん作ってもらったそうだ。
酒造りを支えるメーカーのみなさん、がんばってください。応援します。
(といっても、酒を飲むことしかできない。)
ティスティングルームに戻り、昼食をごちそうになる。蔵人の栄養食、カレーである。
昨日の深酒に疲れた胃を復活させる、ニンニクの効いた絶品のカレーだ。おかわりする人続出であった。
冬の間、毎日酒造りをしている蔵人にとって、カレーが出ると、日曜日であることがわかるそうだ。
(見学も日曜日)
ちなみに、菊姫さんのマイスターは完全週休二日なのだが、冬は、週に1日しか休みがなく、その分、夏にまとめて一カ月くらい休むそうである。
うらやましいようでいて、きっときつい。
あとで、松本杜氏に「一カ月の間に何をしているの?」と聞いたところ、「子供と遊んでいる。」
とのことであった。「造りのことを忘れられる短い期間」でもあるそうだ。
昼食後、精米と貯蔵をしている場所を見せていただく。車ではすぐ、歩くのはちょっと面倒といった距離にある。
でかい!新しい!入るとすぐ精米機がでんと8機鎮座する。他の蔵の精米も請け負っているのかと思うくらいである。
村本さんによると、
「この精米機は山田錦しか削ったことがありません。一冬分の精米は二カ月で終わります。」
とのことであった。
銀行からは、「これだけの能力があるのだから、安い酒をもっと造って売れば?」といわれるそうだ。
菊姫さんの将来の吟醸酒社会にむけた準備は万端である。
私のアルコールの許容量は限界近いので、酒ファンが増えることを願うのみである。
1階は精米機のほかは、タンク貯蔵のスペース、2階が瓶貯蔵のスペースになっている。
1階では、貯蔵タンクを囲む足場を作っている最中で、工事をしている音が響き渡る。
貯蔵タンクは、減産・廃業する他の蔵から買い受けるそうだ。悲しい現実である。
2階は、瓶貯蔵の部屋で、ちょろちょろ開けるわけには行かない。
出荷を待つ酒を、一時、置いておく部屋を見せてもらった。若干どころではない余裕がある。
「全部埋まるのには、10年かかるでしょう。」
と村本さん。
これほどの設備を入れることが出来るのは何かあるのではと勘ぐってみると、全部借金です、とのこと、銀行とは仲良いのかな?と思う。
とは別に、蔵元の夢の大きさ、支える人の力も実感する。
夜は、村本さんの紹介の、「まつ野」さんで宴会、村本さんと、平成蔵の松本杜氏のにも来ていただく。
ぶりも、かにも、白子も、目張も、かまも、大麦うどんも、今日しぼった荒走りも中垂れもおいしくいただきました。
松本杜氏さん、私達が質問をする度に、姿勢を正して答えてくださり、ありがとうございました。
(そのせいでろくに食事が出来なかったことには後で気づきました。すみません。)
村本さんと、松本さんのちょっとしたやり取りから、二人が菊姫の将来を語り合っている様が浮かんで来るようでした。
熟成酒の発売を待たず、松本杜氏のBY大吟を味わってみたいと思います。どうもありがとうございました。
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