初日は天狗舞さん、お酒を飲み始めた頃から、なじみのある銘柄である。
山廃仕込純米吟醸生は、吟醸酒に出会った頃から、
生酒が少し苦手な頃も、現在も、常にめちゃくちゃうまいと思っている酒である。文政六年もいいなぁ。
松任の駅から、タクシーで千円ちょっと、午後1時前に、天狗舞、車多酒造さんに到着する。
入り口には、杉玉と並んでいかにも歴史のありそうな太鼓がある。
あとで、昔、庄屋だった頃のなごりであると聞く。
引き戸をくぐると、車多一成さんと徳田さんが迎えてくださる。
まず案内されたところは、囲炉裏のある部屋で、歴史のあるたたずまいだ。
高い天井、立派な梁など、とても人が住んでいるとはおもえない程であるが、人が住んでいるからこそ、良い状態が保てるのだろう。
囲炉裏の火は、真夏以外は、たえることがないそうだ。
囲炉裏を皆で囲むが、一個所、誰も座らないところに座布団がしかれる。
そこは、当主の席で、他のものは座れないという。
「それで、間違わないように客用の座布団の色が違うのだ!」
天狗舞では、原酒を約6000石仕込み、加水されて、約7000石、出荷されるそうだ。
その酒を、中三郎杜氏と岡田健二杜氏の二人杜氏体制で造っているそうである。
蔵の歴史などを聞いた後、徳田さんに、蔵を案内していただく。
今は、もう吟醸造りは終わっているそうだ。
まずは、米を蒸す「甑」。1500kgのが2機ある。
続いて精米機を見せていただく。全量自家精米を行っているところは、まだ少ないそうである。
他のお蔵さんに行ったときも、精米機の話は良く聞く。
確かに、この大きさでは、導入に制限があるのだろう。(もちろん高価なものなのだろうとも思う。)
側には、山田錦と書かれた袋がでんとつんである。
もう、山田錦の仕込みは、終わっていると思い聞くと、来年の最初の方で仕込むための米だそうだ。
「山田錦は刈り取りが遅いし、造りの最初に感触を見るためにこれで仕込むのですよ。」
写真の、間仕切りで囲まれた部分が約750kgで、吟醸仕込みの約一本分にあたる。
保存は、玄米ではなく精米した状態で行うそうだ。その点は、飯米と違うところかと思う。
もしかしたら、場所がかさばるからかなとも思う。今度聞いてみよう。
精米所の入り口あたりには、麹蓋、大小の麹用の箱が置いてある。麹蓋には約一升の麹が入るそうだ。
麹蓋に盛った麹は、ゆすって中央に寄せられ、表面積を増やすためにすじ(模様)がつけられる。
この模様は、各蔵によって何種類もあるそうで、教えてくれた人のやり方を引き継ぐことが多いとの話だ。
徳田さんに、初心者でも模様をつけられるものか聞いたところ、その前の、真ん中に寄せることの方が難しいそうだ。
天狗舞では、いざというときのために、他の担当の人にも、全員に、麹をよせる経験をさせるようにしているそうだ。
つづいて瓶詰めライン、
火当てした酒を冷ますために水をシャワーのようにかける機械は、建物が、まにあわず、国内初の導入蔵となれなかたそうである。
手作りの要素の多く残る酒造りの肯定で、機械化によってうまくなるところの典型といったところか?
近くには、ラベル貼りと、薄い紙で包装するためのライン。
この機械が入るまでは、この部屋でたくさんのおねぇさんが、手作業でやっていたそうである。
今でも、その脇では、おねぇさんが古古酒大吟の4合瓶に、もくもくとラベルを貼っている。
ラベルの紙質によって、機械ではうまく貼れないそうだ。
入り口には、出荷を控えた「吟こうぶり」が置いてある。
「吟こうぶり」は、徳田さんが利き酒してから出すそうである。
「その工程で吟こうぶりになれなかったお酒はどうするのですか?」
「古古酒大吟に混ぜます。」
「じゃぁ、混ざっているのが当たりですね。」
「量にしたら、ほんのわずかなものですよ!差はわからんでしょ」
ちなみに吟こうぶりの貯蔵温度を尋ねたところ、秘密とのことであった。
つづいて、麹室の辺りへ案内していただく。入り口で手を消毒し、雑菌を撒き散らさないようにする。
麹室の外で、冷まされている、純米酒クラスの麹を食べさせていただく。
「昔は、甘いものが少なくて、こういうのがおやつだったのよ。」
と言って売っているお菓子のようなほのかな甘さだ。
麹造りは、40度の部屋で行われ、外との気温差が大きくずいぶんと体力を使うそうだ。
去年を最後に、70歳になったベテランの麹やさんが引退して、今年から若い人が引き継いでいるのだが、
吟醸造りの間に、10キロやせたうえに、大吟醸の仕込みが終わった日から、三日寝込んだそうである。
ちなみに、70歳の麹やさんは、他の蔵で、今年も活躍しているそうである。天狗舞では、70歳で定年と定めているとのことであった。
その後は吟醸のもろみのタンク、ぷちぷちと泡が立っている。
「静かにして聞くと、部屋中に音が満ちているのがわかりますよ。」
と一成さんから聞く。
各タンクの泡の様子はまちまちで、その様子で、発酵の具合を見るのだとの説明に納得する。
最後に、今、しぼっている酒をいただく。山廃純米だそうだ。
旨い、濃い。つまみが欲しい。18度くらいあるそうだ。
その後は、囲炉裏へと戻り、一週間前くらいに搾ったという、山廃吟醸の原酒の生を利かせていただく。
これを加水、火入れ、ろ過したものが、来年の夏くらいに、製品になるそうである。
夜には、車多一成さんの紹介で、「いたる」さんで宴会、一成さんにも参加いただき、楽しい時を過ごさせていただいた。
それにしても、天狗舞の大吟の生酒とお刺し身の相性のいいことといったら「うらやましいだろう」としか表現できない!って、やな奴=私。
いつもより控えめにお醤油をつけても、おさかなの旨みが、いつもより引き出されているといった感じである。
戻った後、また、試さずにはいられない。それにしても味が多いのにまとまっている旨酒である。
その後は、お店で呑んでいた、プロのお米の生産者も交え、楽しいお話がいっぱいうかがえた。
「車多さんは、米の銘柄より米質にこだわるから好きだ。」
との言葉が印象的であった。
これからもおいしいお米とお酒をよろしくお願いします。
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