酒蔵見学2000<手取川:吉田酒造>

 最終日は、手取川、ここの吟醸生あらばしりは、この季節の定番である。 秋口に呑んで、生酒の熟成のおいしさを、教えてくれた酒でもある。 吟醸酒協会の味わう会で、古古酒大吟がお土産だったときには、大当たりと、自慢して回った。 吉田蔵もこれから毎年楽しみな酒である。

 松任の駅から、タクシーで千円ちょっと、10時前に、手取川、吉田酒造さんに到着する。 吟醸酒協会の味わう会でも良くお見掛けする、吉田社長が迎えてくださる。

 奥に通され、お蔵さんの歴史や姿勢などをうかがう。
 昭和40年代に、東京進出をはたすも、人間関係など、うまく行かず地元に戻った話。 その後しばらく、「蔵元が目の届く範囲」で、お酒を売っていた話。 昭和50年代後半に、良い問屋さんと出会い、再度進出した話。 など、興味深くうかがった。
 自称、東京アレルギーだった蔵元が、問屋さんの電話応対の良さから、少しづつ 情熱を持って行くくだりなど、真摯さの伝わってくる「えぇ話」だ。
 社長の古酒へのこだわりも面白い。
「狙って造らなくても、あんなにおいしくなるのだから、個人でおいても良いのです。 恋づくし・梅舞花・ささゆりの三姉妹は私の趣味でつっております。 でも、なぜ美味くなるのかは、興味があります。」
戦前からの酒を利いた経験からそう感じたそうだ。
 高アルコール清酒「醸二」については、サントリーオールドに対抗しようとして作ったそうである。 作ってから、7年熟成して発売、売り切るまでに7年かかったそうだ。
「まだ、呑まずに持っています。」とつたえると、
「そうですか。後30年寝かせてください。良い酒になりますよ!」との答え。 一本取られた!!。本当に、30年寝かせたくなってしまった。
(ちょうど定年の頃か!良い記念だ!)

翁の友は地元向け 古酒三姉妹

 続いて、社長自ら、蔵を案内していただく。ちょうど洗米を行っているところであった。 今は吟醸の造りは終わっているそうであるが、そのおかげ?でクレーンを使った限定吸水を見ることが出来た。 洗米された米は、そのまま、給水され、時間が来るとクレーンで釣り上げて水を切る。 清酒のコストパフォーマンスが年々良くなっていることを実感させられる。
 洗米のすぐ側にはタンクがあり、そのわきには斗瓶がある。 出来上がったものばかりに目が行くのは私の悪い癖だ。

クレーンで限定吸水 斗瓶

 続いて、仕込みタンクを見せていただく。 仕込みタンクの横の二つのタンクは、昔ながらの仕込み水とピア・ウォーター(純水)が入っている。 二つのタンクの出口には、割合を調節する分配機がついている。 仕込み水は、硬度3から5、純水を混ぜることで、硬度を下げた水での仕込みもしているそうだ。
「早いうちに出す酒は、純水を混ぜて仕込むことで、酒の硬さをやわらげています。」
 吟醸生あらばしりが、数年前から、出てすぐからバランスの良い酒になったのは、この工夫によるものだそうだ。 ひとつの謎が解けた!
 ちなみに、純水だけで仕込んでみたこともあるそうだが、醪が湧かず、大変だったそうである。 秋田の能代:喜久水さんでも同じ事を聞いた。水に頼らぬ酒造りは難しいようである。 二度と水源には、ゴミはすてないと誓う。

仕込み水のタンク ピア・ウォーター

 前後するが、その前に、搾りたても利かせていただいた。 思いのほか呑みやすく、聞いたばかりの知識から、「純水が入っているのですか?」と聞いたら見事にはずした。 無ろ過の原酒とは思えぬ、きれいな酒であった。
 続いて、吉田蔵へと向かう。途中の山廃の酒母室は、今年は造りを終えて、斗瓶がずらりと並んでいる。 ちょうど利き酒か成分分析をしているところだったようで、吉田社長が様子を聞きに行く。 耳がダンボになるが聞こえない。昨年買った出品酒は、安くてうまかったなと思う。

しぼり 酒母室

 そして吉田蔵へ。 手取川さんでは、各商品個別に原価計算をして、値段を決めていて、吉田蔵もそうしているそうだ。 吉田蔵の安さの秘密は、緻密な原価計算にあるようだ。吉田蔵の大吟醸はサーマルタンク2本で仕込まれている。 吉田蔵の吉田行成杜氏は、社長の息子さんなのだが「蔵では、親子の縁は切っております。」と嬉しそうに話されていた。 2本のサーマルタンクの間に鎮座しているのが、酵母用の冷蔵庫で、-80℃で保管しているそうだ。 この中に、古酒3姉妹の高酸度の酵母も入っているに違いない。
 瓶詰めラインは、別の建物になる。その前には、回収された古瓶が積んであるのだが、地元の酒が多い。 香林坊のデパートの酒売り場にもほとんど地元の酒しかなかったことを思い出す。
 この日は、生酒(吟醸あらばしり)を詰めていたので素通りしていたが、車多さんのところにもあった、火あてした酒を、冷ますためのシャワーがここにもはいっている。 急に冷やすと割れるため、シャワーの温度も、段々と下げるようにして冷やすそうだ。 他の蔵では、逆に火入れに使っているところもあるそうだ。
 また、酒を入れるP箱も、普段は、洗浄しながら詰めるのだが、この日は、生酒の温度が上がらないようにと、あらかじめ洗ったものを使っていた。

酵母の冷蔵庫 瓶詰めライン

 部屋に戻り、引き続き話を伺う。 現在、吟醸のタンクは2回転しかしていないが、3回転させたいと言う話や、鳥越城の水の話など吉田社長の話の引き出しは多い。 中でも、酒販店の今後について、石澤酒店夫妻に説いておられたのが興味深かった。

吉田社長と石澤さんとさとみさんのマスター

 お忙しい中、本当にありがとうございました。手取川さんで醸す、「魂の酒」、これからも楽しみにしております。




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