酒蔵見学1998<府中酒造>

  2月23日午後2時頃、上野からフレッシュひたちに乗り、木陰浮月粋人盃10名で、「府中誉」「渡船」の茨城県石岡市の府中酒造さんに到着。山内和治社長と若旦那の孝明さんが迎えてくださる。
  まずは、蔵の歴史や酒造りの話を色々とうかがう。「府中六井」の水の話、南部杜氏の話など興味深い。話の折々に、南部杜氏の押切義昭さんに対する信頼がうかがえる。古い造りの建物の中で、蔵元と、杜氏をはじめとする酒造技術者の良い関係、役割分担が、上手く造られているのだと感じる。また、渡船と、若旦那の印象からくる新しい蔵のイメージと、古くからある蔵のこだわりが、上手くバランスが取れていると感じる。

府中酒造 社長と若旦那

  続いて、若旦那の案内で、蔵の中を見学。調湿器を見せていただく。昨年見学した蔵の他、多くの蔵が、洗米後、限定吸水することで、蒸す前の酒米の水分量を調節している。吟醸用に精米された酒米は、特に水分が少なく、急激に水を吸う。そのため、秒単位での限定吸水が必要になる。調湿器は、乾燥した酒米に加湿することで、あらかじめ酒米の水分量を増やしておき、急激に吸水することがないようにする方法である。調湿を行うことで、吸水はゆっくりと行われるようになり、水分量の調整が容易になる。洗米も、あまり削っていない米と同様の設備で行っても、米が割れなくなると聞く。限定吸水とくらべると、同じ水分量でも、吸水後の見た目はかなりべちゃべちゃして見えるそうだ。それが、蒸米すると、同じ水分量でいい感じの蒸し米になるというから面白い。若旦那は滝野川で、この調湿の理論を研究していたそうである。その時点では、手間もかからず…という話が、調湿器の整備はなかなか手間もかかるそうである。若旦那は、調湿の利点は、米が割れないことであることを強調しておられた。限定吸水の蔵を見学したときの、米を割らない工夫についての話と重なる。米を割ることが、酒質に与える影響の大きさを実感する。


  次に、麹室、仕込みタンク、酒母室を見せていただく。若旦那はたとえ話が上手い。三段仕込みを、学校教育に例える。1段目は幼稚園、まだ、育っていないうちは、変なことを覚えないように、少量で仕込む。2段目、3段目と成長して、我々の手に届く。ちょうど見学しているとき、小さなタンクで仕込まれていた大吟醸の1段目を、2段目以降の仕込みをする750kg位のタンクに移していた。大吟醸の一段目は、さらに小さなタンクで、幼稚園の頃から特別な教育を受けていることになる。(エリートはエリートなりに大変?)

麹室 タンクの移し替え 斗瓶 槽(搾り器)

  見学の後は、吐器のない利き酒でいい気分になりながら、復活米「渡船」の話で盛り上がる。酒米「渡船」と「雄町」との違いについては、遺伝子的に同じかどうか調査してもらっているところだそうだ。ただ、見た目は、背丈も違い、心白の入り方も少し違うことから、違う米であると予想しているそうである。利き酒している「渡船・槽絞り・原酒」をいただきながら、「もっと色々な渡船のお酒が飲みたい」という希望を伝える。「増やしていきたいと考えている。」との返事をいただく。何分、古い品種で栽培が難しいことから、お米の確保が難しいそうである。土地柄から、稲作をする農家が少ないことなど、なかなか思うようにはいかないようだ。ただ、昨年から増えた「槽絞り」ファンの私としては、蔵元がラインアップを増やそうと考えてくれているだけでうれしくなってしまう。ついつい長居してしまった私達の質問に、こころよく、さらにおもしろい話を上乗せして答えてくださった若旦那さん、社長さん、感謝してます、ありがとうございました。
  暗くなってから、蔵を後にして、若旦那の同級生がやっているという蕎麦屋さんで一杯?。大吟粕の汁に釜揚げのようにつかっているうどんを、具の入った醤油仕立てのつゆで…つけ汁の大吟粕を好みでつゆに足し…ずるっとうどんをたぐると、吟醸香がふわっと…そして、府中誉を燗でくいっと…たまりません。
  お家に帰ってから、槽絞り・原酒を復習しながら、楽しい一日を降りかえる。質が高く、かつ、楽しみを与えてくれる、面白い、ハッピーになる。秋上がりの事を考えて、又ひとつ楽しみが増える。

記念写真 吟醸うどん foo氏



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