1993年の秋、学会で研究発表されて大きな反響を呼んだ、マタニティ股義足について、発表者であり考案者でもある、臼井二美男氏に投稿していただきました。同氏は、(財)鉄道弘済会 東京身体障害者福祉センターで、義肢装具士として第一線で活躍中です。
【編集部】

マタニティー義足の開発について
日頃、義足を使用している女性にとって男性にはなかなか理解してもらえない不安や悩みはたくさんあります。衛生のことや義足の外観の美しさの追求。そして、結婚後の妊娠や子育てに対する不安などなど。
特に妊娠した場合はお腹の変化に伴って、からだ全体が太ったりすることを考えると、当然、義足のソケットが合わなくなるのではないかと不安になります。
先輩女性の中には、「義足で赤ちゃんを産み、育てるのは考えただけでも大変だから子供をつくるの見合わせた」などという人もいたかも知れません。それは、なにしろ昔の義足は重かったですから無理もないと思います。でも、最近の義足のパーツや材料はとても軽くて、清潔になってきたので安心してください。
股関節切断の人の義足は、お腹をベルトで締め付けて骨盤に引っかけるようなソケットで装着しています。ですから、妊娠した場合、お腹の変化でソケットが窮屈になり、義足が装着できなくなります。特に臨月が近づくと、普段のウェストサイズ六〇センチの人が、九〇センチくらいになるのですから、それも無理からぬはなしです。
そこで、当センターで考案したのがマタニティ用ソケットです。図参照
このソケットは、内側から軟性ソケット・硬性ソケット・ガードルの三重構造になって、硬質ソケットに付けたベルトとガードルでお腹の変化に対応します。
一番内側にある軟性ソケットは前が大きく開き、大きくなったお腹を圧迫しないようになっています。また、周囲に鋸歯状の切れ込みを入れることでソケットの縁が角となって不用意な刺激を与えないよう配慮しています。
硬性ソケットは、これもお腹を圧迫しないように通常の位置より下げてつくられ、股関節などのメカニズムを保持する役目を果たしています。サイズの変化には、長めにとりつけたベルトで調節します。
一番外側にあるガードルは、硬性ソケットに鋲止めされて、軟性ソケットが必要以上に開くことを防止し、さらに硬性ソケットに取り付けたサスペンションで肩に吊るすこととの相乗効果で、義足の装着を堅固なものにしています。
こういった工夫で、刻々と変化するお腹のサイズに柔軟に対応し、かつ、義足を単なる装飾的なものにとどめず実用的な歩行を実現しました。
昨年、男の子を出産したK子さんは、出産のために入院する当日までこの義足を装着し、この義足で歩いて入院したのです。
たぶん、K子さんが日本で初めて(他に症例や研究発表が見あたらない)マタニティ義足を装着した人と思われます。このようにほとんど前例がありませんから、経験的に言って、他の人が装着してもK子さんと全く同じ経過をたどるとは限りません。
しかし、これまで妊娠したら股義足は装着不可能とされていたものが、可能になることは確かです。
今後、出産予定のある方は、是非、担当の義肢装具士に相談してみてください。あなたをバックアップできる義足が少しずつ進化しています。
=☆=  =☆=
この「マタニティソケットの開発」については、1993年11月に、日本義肢装具学会・神戸大会で発表されたものです。
イラストは、田内久雄氏のデザインによるものです。
(財)鉄道弘済会 東京身体障害者福祉センター
義肢装具士  臼井二美男

お問い合わせはここから送信して下さい。

donki@muc.biglobe.ne.jp