伊豆にこの人あり

も く じ
出会いのこと 作品のこと 作品集 作者略歴 磯の宿

出会いのこと
私がはじめて彼の店に立ち寄ったのは、4年前。はじめて浜松の「にこにこ会」と交流をもって、西伊豆・松崎で障害者シーカヤック体験のイベントを開催した帰り。
その店は、国道136号沿いにあって、いかにも趣味人の店というたたずまいでそこにあった。

いつまでも忘れないだろう。あの時の驚き。
座敷に上がって、まず目を引いたのは、本物の龍の剥製だった。いや、本当にそう思ったのだ。「龍は実在の動物なんだ」と。そのくらいよく出来た、龍のオブジェがガラスケースの中に収まっていたのだ。

その日は連れがいて、彼女と二人して美味さにかまけて「カニ汁」をお代わりし、以来、西伊豆へ行くと必ずこの店、「磯の宿」に立ち寄って、カニ汁のお代わりをすることが常になっている。

この、磯の宿の主人である、梛左龍さんとはじめて出会ったのは、それから中1年おいた昨年の夏である。遊び疲れて、夜遅くなって磯の宿に立ち寄ったさい、彼は店の前で友人達と酒盛りをしていた。私は、臆面もなくこの中に入って、ひとしきりダボラを吹いて帰ったものだ。そして、その時の安請け合いが、「あなたをHPに載せる」ということだった。

安請け合いとは言え、私にそこまで言わしめたのは、彼の趣味人としての魅力なのだ。落語を愛し、寄席文字を書き、墨絵に異才を持って龍の絵をよくする。
そして、その時は気付かなかったが、伊豆の長八に由来する鏝絵をものしているのだ。

そして、今年の8月7日。いつものようにこの店に寄って遅めの昼食をしたとき、彼の鏝絵の制作現場を見る機会を得た。
また、客の少ない時間帯であり、今度こそHPに掲載すべく取材を敢行したのだ。以下、そのことについて記す。
’00.08.13 宝亭鈍騎

作品のこと
圧巻はなんといっても、体長18m、胴回り約1mの龍の飛翔だ。店内天井に掲げられた漆喰で仕上げの巨大なレリーフの中から、眼光鋭く、爪を立てて今にも襲いかからんとする姿に圧倒される。
この作品は、2000年の辰年にあわせて、3年ほど前から制作を続けていて、このほど完成したものである。

作者の梛左龍さんは、料理人として30年のキャリアがある。
彼は、「30年前と比較して、昨今は地魚が当時の一割ほどになってしまった」と嘆く。そして、冒頭に書いたように「魚介が棲める地球環境について考えてみよう」と、魚介類の”ゴミ”を集めて制作にかかった。使用されたのは、龍の頭に体長4mのタカアシガニの甲羅、角と爪は体長80cmのカジキの上顎35匹分、鱗はワタリガニのひれ足を約6500枚、ひげはイバラガニと言った具合だ。
おそらくこの龍は、日本最大だと思われる。
◆ ◆
店に入ったら、正面の額に注目されたい。
鏝絵(こてえ)の龍がかかっている。また、今夏訪れたときに制作中であった、別作品は店内天井を飾るはずである。

鏝絵というのは、家や土蔵の外壁などに漆喰で描かれたレリーフのことであり、優れた壁画技術として、世界的に高い評価をえている。この、鏝絵の技術は、入江長八、通称伊豆の長八文化12年〜明治22年(1815〜1889)によって、創案されたものであり、現在も地方の古い家屋敷に残されているのを目にすることができる。

しかし、どれをとってみても、長八の作品を超えるようなものはでていない。それは、彼らの残したものは左官としての余技であり、本格的に絵師として狩野派の絵師喜多武清のもとで3年間修行した長八とは次元を異にしているからなのだ。そしてまた、漆喰に漆を混ぜるとことで、思うがままの鮮やかな色が出せるという、新しい技法も編み出している。

鏝絵に限らず、芸術分野においては、たゆまぬ研鑽と創意工夫が大切であり、ここに紹介した梛左龍さんもまた、墨絵をよくし、先述の龍のような独創性も持ち合わせている。そして、彼はこのように言っている。「鏝絵は立体作品であり、下絵の段階から、出来上がりを想定した絵柄を描かなければ作品は生きてこない」と。

長八の出生地、松崎町へ行ってみられるがいい。ここでは、長八以外の新作家の作品も容易に見ることが出来る。そして、梛左龍さんの鏝絵を見て欲しい。私がここでなにも言うことはない。誰が見ても明らかに違いがわかるはずだ。

彼の鏝絵には色がない。彼は、「白と黒にこだわる」という。だがしかし、見るものにとってそこに色を感じるのだ。それこそ、そこに生きた龍がいるから他ならない。生きた龍が漆喰によって命を吹き込まれている。そこに私たちは色を見るのだ。

梛左龍さんの「なぜ干支に一つだけ想像上の動物、龍がいるのだろう?」という疑問から発して、「龍を具現化してみよう」との思いがここに実現している。
読者諸氏、西伊豆賀茂村を通ったら、ぜひ見ていただきたい。
’00.08.14 宝亭鈍騎

作品集
ごめんなさい!! 2001年1月末になってやっと写真を修復しました。ご覧下さい。
作品写真集を見る
平身低頭 宝亭鈍騎

白隠龍師 梛左龍
昭和22年: 伊豆に生まれる。
昭和48年: 磯の宿設立。
併行して、龍工芸の道を歩む。
墨絵、龍作家として「自然界からの恵が龍に転生する」を信条に独自の工芸を確立。
現在、龍師として、さらなる求道に精進している。
作家名である、白隠龍師 梛左龍は、白隠の心に通ずる龍師とならん、甚五郎に叶う龍を作らんとの願いと、親交のある寄席文字橘流総師 橘左近師の左をもって命名。
梛は、御神木であり、作家の本名に由来する。

ご案内
旅籠 萬磯料理 磯の宿
写真の上にマウスポインタを乗せると
お店の中が見えます。
〒410-3502
静岡県賀茂郡賀茂村安良里1211−2
TEL:0558−56−0943
FAX:0558−56−0935

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