翌日は朝から小雨が降り続いていた。
「ほらそこ!声が小さい!」
ゲジは昨日の出来事がまるで無かったかのように
いつもと変わらない怒鳴り声を上げていた。
「ほ〜た〜るの〜ひ〜か〜ぁり♪ま〜ど〜の〜・・・」
体育館の中、三度目の『蛍の光』に生徒全員がうんざりしていたが
しっかり歌わなければいつまでたっても終わらない。
香緒美も、うんざりの仲間としぶしぶ声を出しながら
ゲジに悟られないよう、暇な視線をさ迷わせていた。
時折、その視界に昨日の体育倉庫での人物、理恵が入る。
香緒美が注意して今日始めて気がついたのだが
彼女のまなざしは、ちらちらとよくゲジに注がれていた。
それは別れを寂しがる恋しさを含んだまなざしだった。
不意に昨日の光景が思い出される。今とは想像もつかない理恵の乱れた姿。
『あっ、んっ!先生ぇ!あたしは先生だけ、先生だけですぅ!』
たぶん理恵は練習のないぶっつけ本番でゲジと愛し合い、結ばれたのだ。
じゃぁ、兄とセックスの練習をしている自分は何なのだろう?
ただいたずらに、体を汚しているだけじゃないのだろうか?
香緒美の中でそんな不安が次第に膨らんでいった。
ぷろじぇくと るふらん/5th
Session
セ レ モ ニ ィ
Ceremony
第5章 / 露 悪
written by オゾン 【成人向】
「あ〜あ、かったるいよなぁ〜」
「う〜寒っ!」
体育館の下駄箱で、発声練習を終えた生徒達が騒々しく靴を履き替えていた。
「ねぇ、香緒美も気づいた?」
上履きのつま先をトントン鳴らしながら、知美が香緒美に話しかける。
どうやら彼女も理恵の視線に気がついたようだった。
「やっぱり、そーゆー仲だったんだね」
「うん・・・でも、やっぱり信じられないよね、あの二人が・・・っと」
そこまで言いかけ、知美は口を閉じる。
ここでは他の生徒の耳もあるのだ。うかつなことは喋れない。
知美に続いて気づいた香緒美が慌てて話をそらした。
「そういえば今日は顔見ないけど、大樹君お休み?」
「うん、ちょっと熱出しちゃって」
「え〜?どうして?昨日あれだけ元気・・・だったのに」
別の『元気』な部分を思い出した香緒美が少々どもる。
体育倉庫での行為は二人の間でばれていたのだった。
ゲジと理恵が出ていった後、三人とも何も着ていない下半身を
濡らしていたのだから当然の結果だろう。
「えっと・・・・・・それが、その・・・」
大輝のことを聞かれた知美は急にもじもじしだした。
そして、あたりをきょろきょろ気にしながら香緒美の耳元へ口をつけそっと囁く。
「昨日の夜、いっぱい出し過ぎちゃったから・・・」
言い終わり、ふくよかなほっぺを押さえ顔を赤くする知美。
どうやら知美達の行為は体育倉庫だけでは終わらなかったらしい。
「香緒美も早く頑張ってね」
「う、うん」
「なに?赤くなって。もしかしてまた想像しちゃった?」
「ちょっ!そんなんじゃないわよぉ!」
「あははは!や〜い!」
「知美〜〜っ!」
たとえ血が繋がっていても、知美と大輝の二人のように
好き合っているならまだいい。でも、自分と兄の場合は違うのだ。
態度では知美とはしゃぎあっている香緒美だったが
内心は不安という重みでつぶされそうになっていた。
学校帰りの道も雨はやまず、朝と同じようにしとしと降り続いていた。
三月の帰り道。吐く息は白く住宅街のアスファルトには、香緒美以外人影は無い。
灰色の景色にイエローの傘が、ただ一つ揺れ動いていた。
「卒業かぁ、できるのかなぁ?あたしに・・・」
香緒美の言う卒業は小学校から、という意味ではなかった。
片思いからの卒業。隆二に告白できるのだろうか、という事である。
しかし、きちんと気持ちを打ち明けるのはとても勇気がいることだった。
ゲジ先生はきちんと理恵を受け止めた。
でも、隆二は自分に答えてくれるだろうか?
自分はきちんと隆二を愛せるのだろうか?
「はぁ〜」
彼女の口からまた、ため息がこぼれた。もうこれで何度目だろう。
「今日もなんだか会えないなぁ・・・」
香緒美は昨日、隆二のアパートへ行かなかった。
今、隆二の顔を見ると一線を越えてしまいそうで
でも、それが怖くて会えなかった。兄とも練習をしなかった。
香緒美の記憶が、昨晩の情景を繰り返す。
食後一人きりで閉じこもり、勉強机に肘をついていると
昼間に見たフェラチオシーンが幾度も思い出された。
愛おしそうにゲジの肉棒をほおばる理恵。
愛しい相手のグロテスクな部分を愛する姿。
「練習なら、一人でもできるよね・・・・・・・・」
頬づえをついたまま、縦笛の入った赤い袋へちらりと目をやった香緒美は
その中から白いリコーダーを取り出した。
そして、想像している隆二のモノよりやや太目のそれをじっと見つめた後
香緒美は舌を伸ばして笛の先をおずおず口に含んだ。
「ん・・・・・・」
夜の復習。愛しい人のモノを愛する練習が、薄暗い部屋で始まる。
『ちゅっ・・・ちゅぷっ・・・』
舌先をちろちろ動かしてしっかり濡らし、先端をそっと咥えて唇でこすったり
限界までほおばってから引き抜いたり、香緒美は思い出せる限りのやりかたを試した。
『ピプッ・・・・・ピッ!』
唾液の溜まりだしたリコーダーが、調子外れの音を響かせている。
「あふ、隆二さぁん」
小声でつぶやく度、胸がキュンキュンと切ない。
吹き口への溝へ舌先を這わせる香緒美の瞳は
体育倉庫の理恵と同じくとろんとしていた。
普段は嫌なリコーダーの唾臭さも、今は官能を助長する香水になっている。
白いパンティはすでに湿り気を帯び、我慢できなくなった彼女は
スカートをめくり、リコーダーの下を股にはさむとパンティに押し当てた。
じーん、と熱いものが香緒美の下半身に広がっていく。
『プッ!プピッ!』『ぬちゅ、ぬちゅっ・・・』
高い笛の音と唾液のヌメる低い音が、対照的に奏でられていた。
「隆二さん、気持ちいい?」
椅子からずり下がり、のけぞっていた香緒美が心の中でつぶやく。
奥まで咥えられ、唾の溜まったリコーダーが下の穴から
蓄えきれないぶんをとろりと垂らし、パンティを汚した。
内と外の両方から香緒美は白いパンティを滲ませる。
「はぁ、はぁ・・・・あたしこんな、んっ」
リコーダーをカポリと分解し、笛の部分でフェラチオの練習を
しながら下の筒を股間にあてがい、白い布越しに刺激する。
ごつごつした段が下着にコリコリこすれるたび、香緒美の脳奥に快楽が響いた。
たまらず下着をずらした彼女が、今度は直接笛を当てがい
指で押さえる笛の穴にすっかり膨らんだ秘密の豆をはめ込んで円を描く。
「んくっ!」『ピッ!』
喘ぎと共に、リコーダーの奇妙な音色が鳴り響いた。
「あうぅぅ・・・あ・・・はふ」
舌先で白い笛をれろれろ舐める自分に香緒美は没頭していく。
リコーダーの穴にはまり、すっかり膨らんでしまった肉芽と
ピクピク痙攣している全身は、彼女の絶頂が近いことを知らせていた。
「隆二さん、隆二さん・・・あぁ駄目っ!もぉ!」
熱い波が一点に集まり、高まっていく。その流れに逆らわず香緒美は
リコーダーを固定したまま腰をくねらせて秘部を押しつけた。
「んっ!イくっ!んんうっ!」『プピィ!ピィッ!』
水っぽくはしたない音色を響かせ、香緒美は隆二のモノを咥える
自分の姿を想像しながら果てていったのだった。
「おい!香緒美、何ぼ〜っと歩いてんだよ?」
「えっ!?あっお兄ちゃん!」
後ろから声をかけられ、我に返った香緒美は
兄の龍馬が追いかけてきたのにようやく気がついた。
黒い学生服に黒い傘。彼も学校帰りの姿である。
「う、ううん、何でもない」
昨晩のいやらしい行為を思い返していたのを悟られないよう
香緒美は冷静を装い、首を横に降った。
そのまま横並びに濡れた住宅街を歩く二人。
「おまえ最近おかしいぞ。昨日だって『練習』しなかったし
部屋で変な笛ピーピー鳴らしてたし」
「うっ・・・・・」
どうやら昨晩の笛は兄にも聞こえていたようだった。
「おっ、おかしいのはお兄ちゃんよ!」
「おかしいって、何で?」
「だって・・・あんな練習なんて、普通の兄妹はしないもん!」
「したっていいじゃないか。兄妹なんだし」
そこからはいくら話しても平行線だった。身体に対しての
価値観が違う兄とは、気持ちを通じ合わせようとしても無理なのだ。
「もうっ、ほっといて!」
「あ、おい!」
最後の言葉を吐き捨て、香緒美は逃げるように駆け出していた。
「待てよ香緒美!」
だが、小学6年生の足では高2の兄にかなう訳もなく
十数メートルほどで香緒美はあっさり追いつかれ、腕をつかまれる。
「なんで逃げるんだよ!?」
「やっ!離してよぉっ!」
香緒美は何とか振りほどこうとしたが、体格差のありすぎる兄から
逃れるのは到底不可能であった。
「もうしたくないのよぉ!」
「何言ってんだよ。ほら、いいだろ?ただの『練習』なんだから」
「練習なんて一人でもできるもんっ!」
暴れる香緒美をどうにかなだめようと言い聞かせる龍馬だったが
彼女がおとなしくなる様子は一向に無い。思い通りにならないイライラは
次第に蓄積されていき、そして幾つかのやりとりの後
とうとう我慢の限度を超えた龍馬が一声叫んだ。
「いいじゃないか、おい!やらせろよ!」
「!?」
おそらく、ここ二日の間に溜まった欲求不満がその言葉を言わせたのだろう。
うっかり本音を出した龍馬はしまったと思ったがすでに遅かった。
愛の無い性欲剥き出しの言葉に、驚きの顔を見せる香緒美。
兄の真意を理解した彼女が、表情を怒りに変えた時。
「あれ?香緒美ちゃん、どうしたの?」
背後から香緒美にとって聞き覚えのある声がした。
二人が振り返ると、そこにはコンビニの袋と青い傘を持った隆二の姿があった。
香緒美にとって一番会いたい相手だったが
今この状態では絶対に会いたくない相手でもある。
「隆二さん。あの、いえ、何でもないんです」
「?」
「・・・ははぁ、なるほどね」
戸惑う香緒美の様子から、龍馬がすぐに気がつく。
「香緒美、おまえの初恋相手はこいつなんだな?」
「ち、違う!違うもん!隆二さんは、その・・・」
だが、真っ赤な顔で否定してもそうだと白状しているようなものだ。
「香緒美・・・ちゃん?」
隆二は混乱していた。香緒美の初恋相手が自分と聞かされた事実に戸惑っていた。
今、彼女が腕を捕まれている理由。相手の男の正体。昨日来なかった訳など
さっきまで聞こうとしていたものが、もうどうでも良くなってしまっていた。
「・・・・・ほんと?」
そんな隆二へ向き直った龍馬が彼を正面に見据え、ニヤリと笑う。
「はじめまして、香緒美の兄です」
「あ、いえこちらこそ。りゅ・・・」
彼のあいさつはそこまでで止まった。
龍馬が、香緒美をつかんだ腕ごとぐいっと引き寄せ
彼女の唇を無理やり奪うのを見てしまったのだ。
「んんっ!んーっ!ぷはっ!」
口と口が離れ、三人の間に一瞬空白が生まれる。
「・・・ふふっ、くっくっく、ははは!」
「うっ!うわぁぁあん!」
『奪われた!ファーストキス奪われちゃった!隆二さんにも見られちゃった!』
何もかもぐちゃぐちゃだった。ただこの場から逃げたかった。
黄色い傘を放り投げた香緒美が冷たい雨の中を走っていく。
「はははっ!ははははははははははっ!がっ!」
腹を抱えて笑っていた龍馬が次に見た光景は、目の前いっぱいのアスファルトに
血混じりの雨がにじんでいる光景だった。ひりつく右頬の痛みと
だらだら流れつづける鼻血から、ようやく彼は殴られて転んだことを理解した。
『ガフッ!グッ!』
そのまま隆二の打撃が2発3発と続く。
「香緒美ちゃん!」
5発目のこぶしを打ちすえた後、彼にかまっている余裕など
無いのに気がついた隆二は、とうに姿を消した香緒美を探すため駆け出していった。
冷たい雨の降る灰色の景色に、イエローと黒と青の傘が
アスファルトの路上で寂しく雨粒を弾いていた。
「ははっ!はははっ・・・・・・・・・」
そして、コンビニの袋や学生カバンが散らばる中
仰向けに倒れた龍馬が、泣き笑いの腫れた顔のまま
取り残されていたのだった。
つづく