其ノ弐:STORM F.I.T. PULLOVER

ACGウェアが日本国内で幅広く展開されるようになったのは、'94年にF.I.T.(Functional. Innovative. Technology.)シリーズとして展開するようになってからである。F.I.T.シリーズをたちあげた当時は、インナーウェアが主なDRI F.I.T.、フリースが主なTHERMA F.I.T.、アウターのナイロンパーカーが主なCLIMA F.I.T.の3種類であったが、このうちのCLIMA F.I.T.はウインドブレーカーとしての使い方が主で、防水性はあまり無く、縫い目もシーリングがされておらず、アウトドア用のレインウェア、あるいはマウンテンパーカーとしては使えなかった。そこで、'95年から完全な防水・透湿素材を用い、縫い目もシーリングされたアウターウェア、STORM F.I.T.を新たにラインナップに加えた。写真のプルオーバーは、そのSTORM F.I.T.の最初のモデルの一つである。このSTORM F.I.T.をラインナップさせて、初めてACGは名実ともにアウトドアブランドを名乗ることが出来るようになったといえる。

STORM F.I.T.が日本で展開されるようになったのは、'96年秋冬くらいからであり、写真の初代STORM F.I.T.プルオーバーは並行輸入でしか手に入らなかった。STORM F.I.T.が登場するまでは、F.I.T.シリーズはアウトドアウェアとしては三流以下と言わざるを得ない出来であり、STORM F.I.T.は初めてナイキがアウトドアウェアに本腰を入れて開発したモデルであったので、日本での当時の価格は4万円近くした。縫い目は完全にシーリングされ、裏地にはメッシュがつき、ダブルフラップが付いたジッパーにフードと袖口と裾部分はナイロンタフタと、マウンテンパーカーとしての基本的なディテールを抑えつつ(こんなことは一流アウトドアブランドなら当たり前のように聞こえるかもしれないが、当時ナイキがそういう物を作ることはとても凄いことだった)、ナイキというブランドを考えれば、確かに高いでもないかな、とは思った。

STORM F.I.T.の特徴として、ゴアテックスなど他の防水透湿素材と比較し、軽く、柔軟で動きやすいという点が挙げられる。これは、アウトドアクロストレーニングを想定してのことであり、普通のアウトドアブランドには無いナイキらしい良い点だといえる。また、防水透湿素材はピンからきりまであるが、このSTORM F.I.T.はゴアテックスと同じくらい蒸れない。しかも今ではナイキジャパンから発売されているので値段も同性能の他のアウトドアブランドのものに比較し安い。

よって、私はこのSTORM F.I.T.を高く評価している。特に'96年秋冬モデルのプラステックジャケットは非常に完成度も高く、カッコ良かった。が、最近のウェアに見られるあの安っぽい色使いは一体なんだ?と言いたくなるし、せっかくナイキジャパンが発売し、値段も安く出来るようになったのに昔に比べてシルエットが非常におかしい。腕の長さが異様に短く、また胴が非常に太くて長い。はっきり言ってガチャピン向けである。あんなにモノがいいのに、売れ残ってアウトレットセンターに並ぶのはおかしいと思っているナイキジャパンの方、一度でいいから着て鏡で自分を見てください。なぜ売れないのかは着てみればすぐ分かります。あれは人間用の服じゃないです。もうちょっと腕を長くして、胴を短く、細くしてください。そうすれば売れるから。