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by spooky
| うらぶれた路地裏に若いサラリーマン風の男が歩いている。 彼は背が高く痩せ型で黒のスーツを着ていた。 彫りの深いハンサムな顔立ちだ。 目は気だるげでとろんとしている。 その顔にはとぼけているような なにかを面白がるような微笑をたたえている。 髪は黒く、どこか「死神」を思わせるようないでたちだ。 その先には数人の人影がある。 「金は持ってきたか?」 「それは…そのう……」 「どうなんだよ?」 どうやら、よくあるいじめというやつらしい。 苛められている少女はかよわげに言った。 「もってきて…ないですぅ……」 男は軽く鼻歌をうたいながら歩いて行く。 「ママァ〜アイジャストキルアマァ〜ン♪」 「あんたわかってんの?!私たちの仲間にしてやった恩をもうわすれたの?!」 「だってぇ……」 彼は目の前の惨劇が見えないかのようにひょうひょうと歩く。 「プット・ア・ナ〜イフアゲインストヒズネ〜ック♪」 「だってじゃねえ!言ったよな。もってこなかったらどうするかって……」 男達がいじめられている女の子を押さえつけ服を脱がし始める。 「ママァ〜ライフイズジャストビギ〜〜ン♪」 「いやぁ!いやですぅ!」 女はにやにやと笑っている。 サラリーマン風の男が彼らに近づいていく。 男達の一人が彼に気づいた。 「なにみてんだよてめぇ」 「フフフ〜ンフフ……へ?私はただ天高い空とハトを 見ていただけですが……何か?あ、もういっちゃた。……ハト」 「とぼけんなよ、殺られたくなかったらさっさと行けよ」 「あら、ちょうどいいじゃないのこの人にも犯ってもらったら?」 「なんだよおっさんそうゆう事かよ、いいぜ。6万円だ」 彼はそれに眉ひとつ動かさずにこう言った。 「ははあ、いじめというやつですか。 よはど人生が退屈とみえる。でも売春は他人の身体でやるもんじゃありませんよ。 それに私はおっさんではありません黒瀬さんです。」 「なっ……てめえ!」 「犯る気がねえんならさっさといけよインポ野郎」 男達の一人がナイフを突き付けて凄んだ。 「はあ私は初めからそのつもりなんですが……」 「なめてんのかてめ……ゲバッ!」 しかし彼はその続きを言うことはなかった。 黒瀬がいきなり刺身包丁で刺したからだ。 「な……なにしてんだお前!」 黒瀬があたりまえのように答える。 「何って包丁で刺し殺したんですが」 刺された男はもう動かない。 「畜生おおおおおお!」 二人目が鉄パイプで殴りかかった。 黒瀬はひらりとかわすと鼻に包丁を突き立てた。 チンピラの顔に赤い花が咲いた。 「う……うわあああああああ!」 三人目が駆け出す。 「ヒャハハー」 その背中に鉄パイプが突き刺さる。黒瀬が投げた物だ。 女の方にくるりと振り向く。 「いやっ!やめてお願い!この子をもういじめないから……」 「ヒャハハー」 だが黒瀬はなんのためらいもなく彼女の首を斬り落とした。 彼女の言葉すら聞いていなかったかもしれない。 残った女の子が怯えながら言う。 「あ…ありがとうございま……グブッ」 「あ、刺しちゃった、まあいいや。あああ楽しいな〜フンフンフンフフフフン♪」 黒瀬は再び歩きだした。 歩き出せなかった。 本当に唐突に1発の銃弾が彼の足元を抉ったからだ。 「やるじゃないお兄サン。僕と遊ばなイ?」 これまた唐突なことにその声を発したのは コンテナ形のゴミ箱の上に立っているかなりの美少年だった。 詰襟制服をきて前髪をそろえない坊ちゃん刈りにしている。 名札には「小島」とあった。 一見普通の美少年だったが、常人ではない。 眼があきらかに常人のそれではなく戦士のものだからだ。 彼も黒瀬の同類なのだろう。 ここで彼らが出会ったのはひょっとしたら黒瀬と彼が呼び合ったせいかもしれない。 「ヒャハハー」 黒瀬はまったく怯まずに血塗られた包丁を構えて走り出した。 「そうこなくっちゃ!さあいくヨ!」 二人の殺人鬼は引かれ合うように戦いを始めた。 小島はコルトシングルアクションアーミーを片手で構えると3発撃った。 空中で弾丸に陽炎のような物がまとわり付き形を成していく。 弾丸にまとわりついた陽炎は15cm程のクリオネ形の透明な小鬼となって黒瀬を襲う。 黒瀬は頭を狙った小鬼のついた弾丸を斬り落し、 心臓を狙った弾丸を弾き、 肝臓を狙った弾丸をジャンプしてよけた。 よけられなかった。 弾丸は黒瀬の後ろでカーブして肝臓にみごとにヒットした。 ただし背中から。 この小鬼には弾丸を操る力があるのだ。 しかし黒瀬はまったく気にもせずに向っていく。 「殺す殺す殺すッ!!あははははははははは!!!」 小島がさらに2発撃つ。 しかしそれも彼を止める事はできない。 黒瀬はそれらを舞うようによけつつ進んでいき、 小島の腕を斬り落とした。 「やるねお兄サン!楽しいヨ!!」 だが小島も負けてはいなかった。 初めに弾かれた1発と避けた2発が黒瀬の足を吹き飛ばす。 常人ならショック死してもおかしくない傷だが二人ともまったく気にしていない。 それどころか血が止まり、傷口の肉が盛り上がり再生しようとしている。 「なるほどあなたも不死身ですか、これではケリがつきませんね。 楽しいですが私は永遠に闘うのはごめんです。この続きはまたの機会に」 そう言うと黒瀬は空を切った。 切られた空間に裂け目が入り彼はその中に入りこむ。 「それではさようなら」 「待て!!」 黒瀬の体が完全に飲み込まれると掛け目は消えていった。 「くくく………はははははははは!久しぶりだヨ!こんな楽しい闘いは! 黒瀬といったな……次は必ず殺す!!!あはははははははははは!」 ビルの谷間に銃鬼の哄笑が血と生臭い臓器の香りと一緒にいつまでも漂っていた。 |
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