byオゾン
『サンタクロース・カミング・ナイト』 「で、どーすんの?これ?」 「どーするったって・・・」 クリスマスの夜、我が神田川家は多いに戸惑っていた。 母さんが腕によりをかけて作った自家製のデコレーションケーキ。 俺がバイト先で貰ってきた、あまりのチョコレートケーキ。 マヤが商店街の福引きで当ててきたイチゴのたっぷりのったケーキ そして、オヤジが酔った弾みで買ってきた超特大ケーキ。 たった4個の物体だが、テーブルの上にそれらがあるだけで 他の料理がまともに置けなくなるくらいの質量がそこに存在していた。 だが、「どーすんの?」の意味はそうじゃない。 あるもんは仕方ないと、何とか処理するために食べ始めたまでは良かった。 2個、3個と三角形の甘ったるい切れ端を食べているうち 生クリームによる胸焼けで家族全員がいらつき始め お約束通りに俺とオヤジがいつもの口論になったのだ。 そして、これまたお約束に取っ組み合いの大喧嘩に発展し ケーキをぶつけ合う大乱戦をやらかしてしまったのだった。 おかげで現在、台所は生クリームであちこち真っ白になっている。 「は、ははは。とんだホワイトクリスマスだね・・・」 冷や汗をたらしながらマヤがそう呟いた。 「で、どーすんの?」 「ど〜しようねぇ?・・・・・」 「ど〜しようか?・・・・・」 顔を見合わせる俺とオヤジ。 「かたづけなさいっ!」 母さんの鋭い一喝が飛んだ。 ◆ あれから、全員でなんとか台所を掃除し終わり 最後のシャワーでクリームを落とした俺は自室でふてくされていた。 「あ〜きくん♪」 コンコンとノックの音がし、マヤが部屋に入ってくる。 「ふふ、今日もすごかったね。」 「うっ・・・・・」 非常に気まずい。マヤと初めてのクリスマスを 台無しにしてしまった俺は、とてもバツが悪い気分だった。 「マヤ・・・ごめんな。せっかくのクリスマスが、こんなになって。」 「ううん、楽しかったよ。これだけ騒げるなんて嬉しかった。 去年はあたしとお母さん二人だけで寂しかったんだもん。」 そうか、やっぱりクリスマスは大勢で騒いだほうが楽しいもんな。 考えてみれば、もし今日がオヤジと二人っきりだとしたら寒気がするぞ。 やっぱり家族が多いってのはいいもんだな、と俺は思った。 「で、これはあたしからのプレゼント」 ほっぺたに不意打ちの柔らかい感触が触れる。マヤのキスだった。 「じゃ、また後でね。サンタさんがくるの、待ってるよ♪」 意味深なセリフを言い残すと、マヤは足早に出ていく。 頬に手を当てたまま、数秒考えていた俺は 彼女が言った意味にやっと気づくとにんまりと笑った。 「ははっ、とびきりの夜をプレゼントしてやるよ!」 『サンタクロース・カミング・ナイト』 (おしまい) |