by spooky
| 1章 闇。ミリミリと音を立てるような黒い黒い闇夜。その闇に抗うように 白い研究所はあった。 それを真円に近い月が僅かに照らしていた。 自衛官らしき二人が門を警備している。 その前に静かに4WDが止まる、車内から二人の人間を吐き出すと 車はゆっくりと発進する 二人はつかつかと進んで行く。 奇妙な二人組だった、一人は坊ちゃん刈りに学生服、かなりの美少年だ。 学生服の胸には「小島」と書かれている もう一人は日本人形のようにそでを切り揃えたセミロングの美少女だった、 17〜8だろうか少年より年上だ。神秘的で、少し冷酷にすら見える。 小島はそのまま自衛官に近寄っていくと懐からおよそ似合わない物を取り出した。 アンティークな銃だ。西部劇でよく見る……コルト“シングル・アクション・アーミー”。 彼はなんのためらいもなく撃鉄を上げるとまるで道でも聞くかのように 自衛官を打ち抜いた、自衛官の胸から上は喰われた様に何もなかった。 もう一人の自衛官は悲鳴をあげた。あげつづけた。 無理だった。 異変は彼にも起こっていた。彼はかまいたちにかかったかのように八つ裂きにされていた。 少女の手には血の滴るロザリオ(十字架)が握られている。 「さっさといこうよ。小夜子(さよこ)さん」 小島が言った。二人の顔には裂けるような笑みがうかんでいた。 「ええ…」 小夜子と呼ばれた少女はうなずくと進んで行った。 征服すべき建物へと。 建物の側面でも異変が起こっていた。 さっきの4WDが止まっていた。研究所の屋根に先の二人とは違う少女と男がいる。 4WDは二人が屋根に登ったのを確認するとどこかに去って行った。 少女はウエーブのかかっていない腰まである金髪と 憂いを含んだ無垢な瞳を黒いつなぎに似た戦闘服に隠していた。 少し無表情だが可愛い顔をしている。 足には黒いキュロットとタイツを履いていた。 10歳くらいだろうか、小犬がつけるような黒い首輪を着けている。 男は同じような戦闘服の上下とタクティカルベストにスリムだがたくましい体と ハリネズミのような黒髪を持っていた。背中にカタナをしょっている、 メタリックな日本刀といったデザインだ。 なにより特徴的なのがその蛇かあるいは猛禽のような獰猛な目だった。 二人は音もなく研究所の窓に入っていく。 研究所の一室では痩せて背の高い白衣を着た若者が 外側にポップな落書きがされたドアと 実験机の上にある紫色の液体の入った試験管を交互に見て ぶつぶつと独り言を言っている。 なんてことだなんてことだこんな事になってしまうなんて これで僕も立派なマッドサイエンティストの仲間入りだよ。くそっ! オレはいったい何をしているんだ、何のためにこんな…… 「進入警報! 進入警報! 警備員はただちにP2区画に急行してください! くりかえします……」 若者はびくっと後ろをふりかえる。アナウンスだ。 「侵入者……侵入者!? まさかね……そんなこのうえに……まさか!!!」 若者は後ろに貼ってあるプリントを見る。 「やっぱりだ!! ……ああこれは俺のせいなのか? オレのせいなのか!? ……どうする…どうする………」 「……これしかない!!!」 若者は実験机の上にある試験管をつかむと電話をかけ始めた。 「もしもしシュンさんですか? フーゴです。いますぐそちらにつれていってください! わけはあとで……はい…ええ」 数秒後フーゴの体は研究室のどこにもなかった。 彼の忘れていった試験管とバチバチスパークする電話を残して。 窓から侵入した二人が廊下を音をたてずに歩いてゆく ふいに後ろの角から声が近いてくる。 「侵入者は!?」 「1階のP2区画です!」 (ここは2階か3階らしい) 「だれだ君らは?!!」 ふりかえりながら銃を撃ち、ナイフを腹に刺す二人 腹をさされた警備員はあわてて銃を乱射するが遅すぎる。 とくに死にながらでは。 少女はかすり傷を負った。 じっと傷口を見つめた後いやらしい仕草でぐりぐりと執拗にいじり、爪でえぐる。 血のついた指をなめる。 彼女が英語で言う。 「あうぅん……いたいのスキ…」 でもごしゅじんさまいがいのひとで感じるのはいやだな… その頭にパシッと軽く男の手が飛ぶ。 ハスキーな英語。 「レイチェル……仕事中だ。」 とたんに彼女が小さくなってわびる。 その姿は従順な奴隷を連想させた。 「もうしわけありませんクライドさま……」 「謝るのはいい、次がくる……」 さっきより数倍多い声がする 「こっちでも銃声がしたぞ!!」 「いそげ!!!」 「何が起こっているんだ!?」 「ごめんなさい…すこしねてください……」 クナイに似たナイフを投げるレイチェル 一瞬で敵の後ろに跳んで首を掻っ切るクライド 常識的には人間はゲームのキャラクターのようには跳べないだろう。 僕の常識は覆された。 とても人とは思えないすばやさと跳躍力だ。 血を吹いて倒れていく不幸な自衛官たち。 彼らはあっけなく死んで行った。 死とゆうものはこんなところにもころがっているのだ。 二人は落書きのあるドアの中に入っていく。 「アレはどこにある? 紫色だったか…」 あの試験管をさがしているようだ。 「ごしゅじんさまこれではないですか?」 彼女の指差す先にはフーゴが忘れていった試験管がある。 「……らしいな」 彼は試験管をそっとつかむとジェラルミンケースに入れた。 ケースをしまい、侵入した窓から飛び降りると下にはさきほどの4WDがあった。 二人が狭い荷台に飛び乗ると4WDは静かに発進していった。 |