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『rocker and mystic』

by spooky 

商店街の戦闘から数分後、僕達はやはり廃居酒屋にいた。
あのあと正はフーゴに連れられて病院に行った。
おそらく1週間程で治るだろう。
イスに腰掛けたシュンさんが言った。
「やっかいな事になりましたね」
「ええ、やつらの動きがここまで早いとはね」
ユカさんに傷を治してもらった裕也が言う。
「いや、それよりも“あいつ”の言うとった〈非―知〉工場のほうが問題や」
「なんだそれは?」
「あ、おじさんは知らないんでしたっけ。シュンさんに聞いてみて下さい」
いきなり説明を押し付けられたシュンはと惑うそぶりもなく答えた。
「ええと健一郎さん、MKウルトラ計画を知っていますか?」
「ああ、LSDの軍事利用の研究のことだろ?」
「そうです。その計画の中で失語症の患者にLSDを投与するという実験がありました。
LSDの脳に与える影響を調べるためにね。」
「ひどい……」
ユカさんが呟く。
「ひどい?……たしかにそうかもしれませんねぇ、
でもこういうことはこの世界では日常茶飯事です
つらいでしょうがしかたがないんです。」
ユカさんはだまってしまった。
「……」
「……それでしばらくすると被験者の周りに超常現象が起こり、
彼らは予言を出したんです。
その被験者は予言にしたがってある装置を組み立てました。
するとその装置は予言を出し、その周りでも超常現象が起きました。
それがあの“工場”の始まりで、
〈非―知〉工場は予言と超常現象を作る工場の事なんです」
「それでその“工場”がどしたんだ?第一それはアメリカにあるんじゃないのか?」
「“工場”はMKウルトラ計画の時からアメリカの軍部とCIAにつながっています。
それに、“工場”は今は日本にあります。アメリカにはありません。
“工場”の与える悪い影響のせいで日本に厄介払いされたんです。」
「委員会と工場がつながっているとしたら……」
「俺達はアメリカ軍部とCIAを敵に回したという事か!?そんなバカな……」
「それだけじゃないんですよ、おじさん。
アレは悪い超常現象を生産する工場です。これがどうゆう事か解りますか?」
「それを退治するおまえらの景気に直接関ってくるな……」
「そうなんです。アレが動くという事は
日本中のサイキックに関ってくると言う事なんですよ」
「なんだか信じられない話ですね……」
ユカさんが呆然と言った。
「ああ、でも事実だろう」
「そやで、てゆうかそれよりもこれからどうするのかのほうが先決や」
「そうだな、戦略を練るんだ。まずどうなったら勝った事になるんだ?」
「おじさん戦う覚悟はきまったんですね?!……今までよりもっと厭な物を見ますよ?」
僕がまぜっかえす。
「わかっている。だが戦わないと死ぬんだろう?」
「ご主人様……」
ユカさんが不安そうにおじさんを見上げる。
おじさんは大丈夫だ……と言って彼女の頭を撫でてやる。
「ふぅん……そうですか」
僕は少なからず感心した。
そこにシュンさんが申し訳なさそうに切り出す。
「……ええと、いいですか桐ノ宮さん。
勝には敵のリーダーを倒す事です。それには相手の本拠地がわからないと」
「おじさん知り合いに情報屋なんていませんよね?!」
「いるわけないだろ――」
その声を電話の着信音がさえぎった。
裕也のケイタイだ。
おそるおそる手にとる。
「はい……誰?」
「周防誠という者だ。……桐ノ宮にかわってほしい」
裕也がおじさんにケイタイを手渡す。
「気をつけて下さい、なんかのワナかもしれへん」
おじさんは無言で肯くと受け取った。
「もしもし……誰だ?」
「桐ノ宮か?僕だ、周防だ。おぼえているか?」
「周防……ああ、高校の周防か?どうやってこの電話にかけてきたんだ」
「そんな事はどうでもいい、僕は今刑事をやっている。委員会について情報があるから
青葉区の「ベルベットルーム」に来てくれ」
「お、おい……」
そう言うと周防は電話を切ってしまった。
「切れましたね……どうします?」
僕が問う
「信じるか信じないか……か」
「あからさまにアヤしいんすけどねぇ」
「ユカはどう思う?」
「わたしは行ったほうがいいとおもいます。
だってそのひとご主人様の同級生なんでしょ?
だますつもりならそんな電話しないと思うんです」
僕が、んなわけないっしょと言おうとした時にシュンさんが言った。
「そうですね、ここは罠だとしても行くべきです」
健一郎は再び優しいメイドの頭を撫でながら言った。
「ああ、それが一番近道だな」
「まじっすか……」
どうやら行くしかないようだ。

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