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『わがままな愛情』 セイドメイドシリーズその5

byオゾン

第1章「社長室」

「あぁ?奴はまだ動かんのか?」

 ここは桐ノ宮総合株式会社の本社。その高層ビルの最上階。
社員達が『天守閣』と比喩しているこの場所は、その名の通り
フロアー丸ごと社長専用になっており、一般社員の立ち入りは滅多に無い。

そんな最上階のカーテンに閉ざされた応接室で
ソファーに座った社長が、受話器に向かい怒鳴り声を上げていた。

菊地 兼秀(きくち かねひで)四十半ばを過ぎた中年の男。
白髪混じりのヘアスタイルと、長身の割に痩せぎすな姿。
そして苦労の跡が見える彫りの深い顔だちは、この年齢で今の地位へ
たどり着く為に酷使された激務の代償であった。

「あいつは何をぐずぐず言っとるんだ?」
仰け反るように座ったまま、部下に向かって激を飛ばした菊地社長は
ひざの上にある軟らかな球体を撫で回し、気を落ち着かせようとしていた。
怒りで血圧を上げるのは医者から抑えるよう言われている。
「ったく、健一郎の奴め・・・」
憎らしげに呟くと、彼は手のひらにあるすべすべした球体をつまむと
ひねりを加えてつねりあげた。

 健一郎が社長を辞め、菊池に譲ってから
会社の業績はほぼ横ばいか、下降ぎみだった。
もちろん理由は判っている。他社との交流が上手く行ってないからだ。
菊地の話し方は一方的で強引なものが多く、下受け企業からも決して
良くは思われていない。俗に言うワンマン社長なのだ。

社内では昔の健一郎の手腕、いざという時に相手の心を読み
ギリギリ納得できる条件を引き出していた彼を懐かしみ
愚痴をこぼすような者まで出てくる始末だった。
『まったく、あの社長にも困ったもんだ・・・』
偶然聞いた社員の愚痴。追い出した相手を呼び戻さねばならない皮肉。
そして、心を探るような健一郎の顔つきをまた見なければならぬ忌々しさ。
様々な思いが脳を巡り、菊池はつねる指にギュウと力を込める。

「んっ!・・・・・」
球体が、押し殺した声を上げた。四つんばいになって社長に尻を向け
剥き出しのヒップを彼に差し出していた怜子が、歯を食いしばって悲鳴を堪える。

応接室で秘書の怜子と交わっていた菊地は、携帯電話をかけながらも
彼女との情事を止めることなく腰を動かしていた。
その間、怜子はテーブルに手をついたままじっと耐えていたのである。

そんな彼女にかまわず、社長は電話の向こうへ消音がわりの叱咤を浴びせ
ずんずんと腰を動かしながらまた尻をつねった。
「ぁっ!くぅ!」
不意の痛みに声をあげそうになり、唇を噛みしめて堪える怜子。

「役たたずめ、もういい!後は俺が何とかする!」
 さんざんなケナし文句を部下に浴びせ、電話を切った菊地は
胸ポケットから小ビンを取り出すと、血圧を下げる錠剤を3粒
手のひらにのせ、コップの水で喉奥へ流し込んだ。

「聞いていたよな、怜子?」
ぴしゃりと彼女の尻をはたき、菊地が告げる。
「健一郎を誘惑して来い。もう一度会社に戻らせるんだ」
「はい・・・わかりました」
「よし、なら続きだ」
「はい。ありがとうござ、あっ!ああっ!あっ!」

ニヤリと笑った社長は、秘書を突き犯す肉棒の動きを早めると
快楽のみが目的の陵辱行為に没頭し始めたのだった。

          ◇

 社長への奉仕が終わった怜子は、トイレの中で後始末をしていた。
最上階の女性用トイレは、怜子以外使用する者がほぼいないため
安心して後始末ができるのである。

「ん・・・・ふぅ」
淡いピンクのタイルに彼女の喘ぎが小さくこだまする。
個室に入った怜子は、洋式の便座へ反対にまたがり
ビデの温水を自分の秘口に当てながら、奥まで注がれた精液を
くちゅくちゅ指でかき出していた。

ピルを飲んでいる為、妊娠の恐れは無いのだが、それで全て良しとは限らない。
中に出された後の始末は、全て女性に押しつけられるのだ。
膣に指を入れ、かき出す怜子の姿は情けなくも淫靡なものだった。
「はぁ・・・ん」

 時折、クリットを叩くビデの噴流が、彼女をびくりと震わせる。
菊地社長は、怜子をイかせることはなく、イかせようとも思っていない。
ただ、自分本意に快楽を満たそうとするだけである。
そんな菊地を相手にしている怜子にとって、この行為は自らを慰める為でもあった。
「あっ!んんっ、ぅふっ!」
腰をくねらせ、温水が噴き出す悦楽のスポットをずらしながら
彼女は肉奥をかき回す右指の動きを速めていった。

「あぁ・・・健一郎様ぁ」
多分、今の呟きが菊地に知られたらただでは済まないだろう。
独占欲が強く、怒りを我慢できない。菊地とはそういう男なのだ。
「健一郎様ぁ」
もう一度彼女が呟く。聞かれたらおしまいだというスリルに
ゾクゾクするものを感じながら、怜子はトイレで自慰行為を続ける。
はだけたブラウスとブラから豊満な乳房がこぼれ
彼女がよがるたびにぷるるんと揺れていた。

「あっ!イくっ!んっ!くぅぅ・・・んっ!」
健一郎の顔を思い出しながら、彼女はクリットに快楽を注ぐ噴流と
膣肉をかき回す指によって、深く静かに昇り詰めていった。


 心と身体。二つの意味での後始末を終えた怜子は洗面台で化粧を直していた。
鏡の向こうには、垂れ気味の眉をひそめ、悲しい顔をしている女の顔がある。
社長が変わってから、彼女は性に満足していなかった。

菊地社長のセックスは自分本意のセックスであり
こちらを満足させようという意思が全く無い。
ましてや、恐怖心や服従心などを玩ぶような
彼女の琴線に触れる行為が何一つ無いのだ。

盗撮を恐れ、カーテンを閉め切ったまま
自分だけの快楽をむさぼるばかりなのである。

『健一郎様・・・』
もうすぐ彼に会える。それだけで怜子の肉体は疼いてしまっていた。
またあの時と同じ事をしてもらえる。初めて彼にされたのはいつだったろう?
怜子は、初めて健一郎に陵辱された懐かしい日の思い出を
鏡を見つめながら記憶の中から引き出し始めていった。

          ◇

「あら、珍しいですね。社長がゴルフなんて」
「ん、ちょっとな」
菊池に犯された場所と同じ、滅多に人の来ない来客用応接室。
あの日は確かそこで健一郎がゴルフのパターを振っていた。
「付き合いの為だ。少しは練習しておかないとな」

コツンと叩かれたボールは、カーペットの上を軽やかに進み
緑色の平たいプラスチックカップからわずかに外れ、転がり続ける。
そして窓際のガラスにコトリとぶつかり、ようやくその動きを止めた。

「なかなかうまくいかないもんだ」
「社長はテニスの方がお上手ですものね」
「はは、まぁな」
遠まわしに慰められたのに気づいたのか、自嘲気味に健一郎が笑う。

「ああ、笹川君。すまんがボールを取ってくれないか?」
「えっ?」
何気ない彼の一言だったが、怜子は心臓をドキリとさせた。
見たところカップの中にボールは一つも無い。
5つのゴルフボールは全て窓際近くまで転がっている。
「あの・・・あたしがですか?」
「他に誰がいるんだ?」
普通に歩いて拾ってくればいいだけのはずである。
だが、怜子にはそれができない理由があった。

『高所恐怖症』
高いところ、下を見下ろすような所にはいられないという心の病である。
足元の見えないほど大きなバストを持つ彼女は、その胸のせいで
階段を落ちた経験が幾度かあるのだ。

「どうした?」
ビクリと全身が震える。ここはビルの最上階である。天井からカーペットまで
ガラス張りにされた窓は、彼女にとって地獄の入り口にも等しい。
「早くしろ。何をぐずぐずしている?」
仕方なしにゆっくりと歩を進める怜子。室内の冷房は十分効いていたが
それでも収まらない嫌な脂汗が額に浮かび始めていた。

近づくごとに外界の景色が否応にも目に入る。銀縁のメガネを取り
わざと視界を悪くさせたが、それで怖さが納まるはずがない。
窓から2メートルほどの位置まで寄ると、彼女はひざをカーペットへそっとつけた。
これ以上はどうしても立ったまま近づけないのだ。

みっともない格好だったが、犬のような四つんばいの姿勢になり
怜子は手前から一つずつボールを拾っていった。
一つ、また一つ取る度に視線が窓へ近づき、目の前が広がる。
腕と膝はすでにがくがくと激しく震えてしまっている。
『あと一つ・・・』
だがそれは完全にガラスとくっついており、もっと傍に寄らなくてはいけない。
覚悟を決め、きゅっと瞳を閉じると、怜子は目の見えないまま
膝で2、3歩進み、勘を頼りに窓際へ腕を伸ばした。

だが、肝心なボールはなかなか見つからなかった。気ばかりが焦ってしまう。
『どこなの?早く・・・』
指先がガラスに当たっているのを確認し、左右を探るが
それらしいものは一向に指に触れない。額の脂汗がじっとり量を増やしていく。
仕方なく、怜子は薄目を空けて最後の一つを捜した。
だが、窓のふちに白いボールの姿は見あたらなかった。

一瞬の疑問。その答えは彼女の腰を後ろから抱きしめた健一郎が告げた。
「遅いぞ、もう自分で拾った」
「きゃっ!」
手に持ったゴルフボールをスーツ越しの乳房に押しつけ、彼が囁く。

「笹川君、怖いのか?高いところが?」
「は・・・・はい」
瞳をきつく閉じ、抱かれるがままに怜子が答えた。
「だったら・・・」
「あっ!」
「それは直さんといかんな」
「ひっ!やめ、やめて下さい、社長!」

拾ったばかりのボールが細い指からこぼれ、四方に散らばる。
彼女の上体を強引に起こした健一郎は、怜子を膝立ちの格好にさせ
腕をつかんで窓ガラスに張り付かせてしまったのだった。
「やめて!お願い!怖い、怖いんですぅ!」
まるで小さな子供のように怜子は泣き叫んだ。
普段見る、凛とした態度からは到底想像できない狼狽ぶりである。

そんな彼女の後ろから健一郎は耳元へ口を寄せ、そっと囁いた。
「怖い?俺が傍にいてもか?」
「あぁ・・・・うぅっ!」
「大丈夫だ。恐怖症は俺が直してやろう。
 このままだと、こんなところでは仕事もできないだろ?」
ゆっくりと胸に手を回し、豊満な乳房を揉みしだきながら諭す彼。
「・・・は、はい」
後から考えれば淫らな行為に及ぶための言い訳にしか過ぎなかったのだが
その時の彼女にとっては従うしかない言葉だった。

「あっ!んっ!はぁぅ!」
事務用スーツの前をはだけ、スカートをまくりあげられた姿で
怜子は初めて健一郎と繋がった。ガラスに張りつかされたまま
後ろから激しく突かれ、あられもない淫声を怜子はあげる。
嫌な脂汗は、いつしか芳香漂う歓喜の汗へと変わっていた。

優しくクリットをくすぐられ、剥き出された乳房の突起を
コリコリと玩ばれながら怜子は高さを忘れる快楽に没頭していった。
「笹川君は処女じゃ無いようだな。初めてはどこで失った?」
「はい、あの・・・大学生の時に、パーティーで酔わされて・・・」
「酔ったはずみでか?」
「でっ、でもっ、何されたかほとんど覚えてなくて
 血がいっぱい出たのだけは・・・・・はっきり覚えてて」
「・・・・・」
「でも、その人とはそれから全く会わなくて・・・それきりでした」

彼女の告白を聞き終わると、健一郎はため息を一つついた。
「なるほど。遊びで処女を奪ったから、後ろめたかったんだろう」
「ううっ」
「安心しろ、俺は一度きりとは言わん」
「ああ、社長ぉ・・・」
腰を抱かれ、乳房を優しく揉まれた怜子はうっとりした表情をさせた。

「ほら、目を開けるんだ。怖さに慣れないといかんぞ」
「ん・・・・・ああっ!」
「ふふっ。まだ怖いんだな?今、中がキュッと締まったぞ」
「ううっお願い、言わないでぇ」

 恐怖の混じった快楽。心を玩ばれる被虐の性行為。
思えば、それは一人遊びを覚えた中学の頃から密かに望み
憧れていたものだった。強制的な辱めは怜子自らの夢だったのだ。
健一郎はそんな彼女の欲望を見透かし、開花させたに過ぎない。

「はっ!はっ!はっ!あっ!あああぁ〜〜〜〜!」
普段なら一目見ただけで気が遠くなるはずである眼下の街並みも
今の怜子にとっては、快楽を増す為の媚薬に過ぎなかった。
「あんっ!社長ぉっ!イくっ!またイっちゃうぅっ!」
「なんだ、俺の知らない間にもうイってたのか?」
「は、はい。すみません」
「今度からはイく時はちゃんとはっきり言うんだぞ」
「わか、わかりまし・・・ぁあっ!イくぅっ!」
膝立ちのまま、はだけた乳房をわし掴みにされ
怜子は後ろからの貫きに幾度も絶頂へと導かれていったのだった。

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