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『ひとときの夢』 セイドメイドシリーズその3

byオゾン

第1章 「たわむれ」

 ゆるやかな音楽が流れていた。
夜につつまれた洋館の、ただひとつ明りの灯る書斎部屋から。

その、ゆっくりとした優しいリズムに合わせ、この屋敷の主人とメイドが
静かに抱き合ったまま、チークダンスを楽しんでいた。
携帯式のCDデッキから流れる曲が、消えるように終わった後
小さな駆動音をさせ、3回目のリピートに入る。

「あの・・・・ご主人様・・・」
か細く鳴くように、ふいにメイドが口を開いた。
「何だい? ユカ?」
腕に抱いた赤ん坊のように、彼女の体をゆらゆら揺らし
館の主人、健一郎が言葉を返す。

「そろそろ、あたし・・・・」
今にも泣き出しそうな声でユカがつぶやくと
主人の背中をきゅっと抱き、彼の胸に赤らんだほっぺたを押しつけた。
「だめだめ、まだ始まったばかりじゃないか。」
メイドが何か言いたそうにしていたのを断り、健一郎は彼女の髪からただよう少女の香りを
楽しみながら、彼女の背中を撫で続ける。
「でも・・・・」
「我慢、できないのか?」
その質問に、こくりとうなずくユカ。

 もしも今、このチークダンスを見る者がいたとしても
二人の関係が恋愛感情のある主人とメイドの間柄、というのが判る程度であろう。
 ワイシャツと黒いズボン姿の長身な主人と
紺色のごくありふれたメイド服を着た少女が
抱き合って踊る風景でしかない。

「ご主人様・・・あたしもぉ、膝に・・・力が・・・・」
ユカの膝は、彼女の言葉通りカクカク震えていた。
「そうか、立てないんなら・・・・」
ニヤリと笑った彼が指先をスカートの後ろにすべり降ろし
尻肉の狭間にある彼女の恥ずかしい奥をきゅっと押す。
「あぅっ!」
「俺が支えてやるぞ。」
「だっ、だめ・・・・」

 爪先立ちでこらえる彼女の膝がさっきよりも震えを増し
メイド自身の限界を示していた。
「もぅ・・・立てない・・・・」
「いいよ別に。支えてあげるから」
彼女の背中に回した片腕で腰を引き寄せ、健一郎は二人の腹どうしを更に密着させた。
「だって・・・・・」
「だって?」

 その答えを言おうか言うまいか、ユカはしばらくの間もじもじ戸惑っていた。
が、何やら我慢できなくなったのか、声を殺して一言。
「食い込んじゃぅ・・・・」
と、つぶやく。

 健一郎はまたニヤリと笑みを浮かべると、メイドへの質問を進めた。
「何が食い込むんだい?」
「・・・・・・」
「黙ってたら判らないよ。ほら、言ってごらん」
「・・・・・・」

 返事をしないメイドを見届けると
主人は彼女のヒップにあてがっていた指を、更に奥へと進める。
そして、彼女の恥ずかしい菊のつぼみへ淫靡な刺激をぐりぐりと与えてやった。
「あっ、やっ!」
「はっきり言うんだ。言わないと、もっと食い込ませるぞ」
「あぅぅっ!はぁ!わ、わかりました、だから・・・」

 膝を内に折り曲げた彼女の両足は、すでに体を支える役目を果たしていない。
しかしそれでも彼女の体はずり下がらず、主人に抱きついたまま震えていた。
「お、おちんちんです。おちんちんが・・・奥まで・・・・」
「食い込んでるんだ?」
「はっ、はいっ!あっ、ああっ!もぉ駄目ぇ!」

ユカの肉体は、腰で支えた彼の腕と、尻肉にあてがわれた指。
そして先ほどから奥へ入ったままの健一郎自身のみで支えられていたのだった。
主人の背中にしがみつく両腕や、痙攣する彼女の両足にはほとんど支えの意味が無い。
「んはぁっ!ああぅ、やだぁ!エッチになっちゃうよぉ!」
腰をくねらせユカが叫ぶ。

 一度全裸にされれば羞恥心も消え、多少のことなら平気になれるのだが
服を着たままの今では普段の理性を消しきれず、より恥じらいが高揚してしまうのだ。
もちろん、それが健一郎の狙いであるのだが。

「はは、ユカはエッチだな。すごくいやらしいぞ」
「やぁ!・・・言わないでぇ!」
「そんなに腰を動かすなよ。誰か見てたらどうする気だ?」
「みっ、見ないで・・・・ああっ!」
二人が繋がる部分は密着されているため、捲れ上がったスカートも
下げられたズボンのチャックも、傍目からは隠されていた。
確かに、彼女が尻を蠢かせない限りは普通のチークダンスに見えるだろう。

「もっと静かにできないのかい?これはダンスなんだよ」
しかるように健一郎が腕の中の少女に囁く。
「んふぅっ!、は、はい・・・・でも、あそこが・・・・うずいて」
だが、ユカは恥じらいつつも腰の蠢きを止めようとしなかった。
彼女の紅潮する表情を眺めながら健一郎は鼻で軽くふふ、と笑う。
「ダンスじゃ、我慢できないんだね?」
「はい、我慢できません。はやく、はやくして下さぃ。ああっ!」

『これ以上焦らすのも可哀相だな・・・』
ふるふると、か細く震えるその様子を眺めながら健一郎は思った。
「わかったわかった。それじゃ、いつものやつだ」
主人が二人の間で決まりごとになった質問をする。

「あれは、ちゃんと付けているか?」
「あぅっ!んっ!は、はいっ!大丈夫ですっ」
「よし。おりこうさんだね」

 健一郎は避妊具をつけていない。つけているのはユカのほうである。
子宮の入口に装着する「ペッサリー」と呼ばれるふた。
使用前のコンドームを一回り大きくしたような形のそれが、二人の避妊法だった。

「じゃ、ベッドにいくぞ」
「あぅっ!ありがとう・・・・ございます。あっ、はぁ・・・」
やや間を置き、主人が一つ条件を加える。
「ただし、このまま歩いていくんだ」

          ◆

 CDの曲は軽快なディスコミュージックに変っていた。
「あっ!はっ!あっ!ああっ!んん!」
そのハイテンションなリズムに合わせ、ベッドに仰向けた健一郎の上で
ユカの肉体が汗だくになって跳ね回る。
窓も無く、厚い壁に覆われた寝室は、防音がしっかりされており
大音量の音楽もユカの喘ぎ声も、誰かに聞かれる心配はない。

「あっ!あっ!いっ!いいっ!いいの!奥がいいのぉ!」
 誰にも見られない安心感からか、それとも衣服と共に理性を剥ぎ取られたせいか
恥じらいをすっかり忘れ、ユカは健一郎に痴態をさらけ出す。
 スプリングの弾みと音楽に腰を合わせ、彼の上で跳ねる彼女は
ついさっきまで恥じらっていたメイドとは、まるで別人のように乱れていた。

 汗ばんだ16歳の身体が、その若々しさにふさわしい肌の張りを見せてきらめく。
甘酸っぱい少女の性臭が部屋中にあふれ、主人の性欲を更に刺激する。
「ほら、もっと音楽に合わせて!」
「あっ!は、はいっ!ぅんっ!んっ!くっ!ふっ!はあっ!」
リズムに合わせ、ユカがベッドのスプリングをギシギシきしませる。
が、快楽に夢中なせいか、ユカのテンポはどうしても曲とは合わず
そしてどんどんずれていってしまった。

「しょうがないな、交代だ。お手本を見せてやろう」
そう言ってメイドを転がした健一郎が、繋がったまま上下の位置を入れ替えた。
彼女の両足を肩に抱えて股を大きく開かせると、根元まで埋め込む深い体位にする。
「あっ、やだぁ!恥ずかしぃ!」

 恥辱を誘う格好を恥じらう彼女にかまわず、健一郎は股間のモノを
リズミカルに注挿し、肉の指揮棒でメイドの演奏を始めた。
「あっ!あっ!あっ!ああっ!あっ!あっ!あんっ!はぁん!」
ビートと共に先端を差し入れ、時にはえぐるように腰を回し
ドラムにも負けないほど腹まで響くように奥を突く。
「あぅっ!はっ!くぅ!んんっ!あっ!あっ!ああっ!」
主人の注挿による指揮にユカが淫らな喘ぎ声を奏でる。淫らな深夜のコンサート。

「ご主人様ぁ、はやくぅ!あっ!あたし、もうすぐ!」
「イきそうか?」
「んっ!はい!イッちゃいそうですっ!」
「じゃ、一緒にイくぞ」
「あっ!はっ!はいっ!」
音楽も二人の高まりと共に、最高潮を迎えようとしているところだった。

「ふっ、ふっ、ふっ、くっ!出すぞ!イくぞ!」
「あくっ!あたしもっ!あぅっ!あっ、あっ、あぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
 CDデッキの音量より一際激しく、ユカが淫声を奏でる。
絞り上げるような肉づかいで、淫猥に肉壁をひくつかせる。
まるで、彼がこれから放つもの全てを飲み込もうとするようなひだ肉の蠢き。
 その望みに答えるよう、健一郎はクライマックスの激しいビートに合わせてユカを突き
白濁の粘つく液体を二度、三度と膣奥へ放ってやったのだった。

          ◆

 あれから数回。途中、休憩を入れつつも、様々な曲で行為を楽しみ終えた二人は
身体を寄せ合い、ひと心地ついていた。

 彼女の好きな腕枕。健一郎は最愛のメイドをその腕に抱き
ユカは細い指先で主人のたくましい胸を撫でる。
「固い筋肉・・・」
「毎日鍛えてるからな」
「ふふっ、教えてくれたって良かったのに」

主人の行う毎日の鍛練。彼女がそれを知ったのは、今日の昼間の出来事だった。

 桐ノ宮邸の敷地には健一郎にとっていくつか憩いの場所がある。
離れに建てられた蔵書倉も、そのお気に入りの一つだった。
そこは屋敷の者達から「図書室」と呼ばれており
昼の間、主人が本を読む場所として知られていた。

 その図書室へ健一郎を探しにきた彼女が、ぶ厚い辞典をバーベル代わりにして
胸筋を鍛えていた健一郎を偶然見つけてしまったのだ。
照れくさそうに笑う彼。初めて見た主人の照れる顔は
ユカにとって、とても可愛らしいものに感じた。

「これでも学生の頃はテニスをしてたんだ」
「本当ですか?」
「ああ。とは言っても俺と打ち合っても多分楽しくないぞ。
 何せ玉筋の卑怯さに他の奴から嫌われていたからな」

まだ二十代後半であるはずの彼が遠い目で昔を語る。
「あの頃はテニスでも何でも、勝つ事しか考えてなかった・・・」
「へぇ・・・ふふっ、ご主人様らしい・・・・」
「俺らしい、か。ははは・・・・」

 ユカにとっては冗談交じりの何気ない一言だった。
が、彼女の言葉を聞き、健一郎はふいに寂しそうな顔をさせた。
「あの・・・どうかしました?」
「ユカ・・・・俺、恐いんだ・・・」
そう言って健一郎は心細そうに彼女へしがみつく。
自分より大きいはずの主人の肉体が、ずっと小さくなったようにユカには思えた。

「心の大切さをユカから知る度に、昔の自分が酷く嫌な奴だったのが判るんだ。
 みんなを、傷つけていたんだって判るのが・・・・辛くて」
「ご主人様・・・」
何かに脅える小さな子供のように、主人はメイドの胸に顔を埋めた。

 主人健一郎はユカと出会い、愛すること、心を通わせることの大切さを知った。
だが、心の成長は喜びのみを知るだけではない。
過去の愚かさや、自分がしてきた行為の罪深さを知るという、悲みの面も存在するのだ。
「今さらそれが判ったって、償えないのにな。謝ることすらできない・・・」
「ご主人様・・・・・・」
自分のいたらなさを反省する主人の姿が、可哀相で、愛らしくて
胸の奥がきゅうっと締めつけられるようなものをユカは感じた。
「ねぇ、ご主人様」
いたたまれなくなった彼女が、ふとあることを思い出し、主人に慰めの言葉をかけた。

「後悔する過去は、誰もが必ず持ってます。
 手後れになっていくら反省しても償えない時だって
 いっぱいあります」
「ユカ・・・」
「償うことも大事ですけど
 一番大切なのは、後悔でも償いでもありません。
 二度と繰り返さないようにする努力です」

 突然、メイドの口から聞かされた大人顔負けの格言に、健一郎はひどく驚いた。
「偉そうなこと言っちゃいましたけど、これ。お父さんの受け売りなんです」

 さっきの健一郎のような遠い目をしながら、彼女が過去を打ち明ける。
経営する会社が倒産し、自殺した父親と話した会話のいくつか。
中学の三年間と数ヶ月の高校生活にした失敗。
「あたしだってまだこんな年なのに、色々へましちゃったこと、あるんですよ。
 全部反省してたら、きりがないです」
そう言うと、ユカは茶目っ気そうにぺろっと舌を出した。
「これは、そんな時お父さんが教えてくれた言葉なんです」
「・・・・・いい父親だったんだな」
羨ましそうに健一郎が一言つぶやくと
「ユカ。おまえに会えて、俺は本当に良かったと思っている」
と言い、感謝を込めてメイドに抱き着いた。

『一番大切なのは、後悔でも償いでもない。
 二度と繰り返さないようにする努力だ』
父から教わった名言を、ユカはもう一度思い出す。そして
『だったらどうして自殺なんか・・・』
と、彼に知られないように心を曇らせた。

「ユカ・・・?」
「え?あ、何でもありません。ただちょっと、昔を思い出して・・・」
主人に気づかれそうになったのを、慌ててごまかすユカ。
「今は、もう幸せですから・・・・
 わたしも、ご主人様に会えて良かったと思ってます」

そう言って、ユカは胸に抱いた健一郎の頭へ細い指をあてがうと
まるで子供をあやすように、優しく彼を撫で続けたのだった。

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