前の章へ 本を閉じる あとがきへ 


『さよなら』 セイドメイドシリーズその6

byオゾン

エピローグ「思い出の終わり」

「ただいま」
書斎部屋の扉を開け、ユカはその中へと入った。
すっかり日が落ちた後の室内は、家具の輪郭程度しか分からないほど暗い。
パチリとユカが照明のスイッチを入れると
椅子に座ったままの健一郎の姿が現れた。

「お帰り」
ただ一言、答える健一郎。
昼の間だけの短い別れだったが、ユカの目には
彼は朝と比べて幾分やつれてしまったように見えた。
「やっぱり、吐いちゃったんですか?」
「・・・ああ」
自嘲気味に笑う健一郎。昨日の晩、彼は自分に
嘔吐癖があるのをユカに告白したのだった。

弱い面を恥ずかしがらずに知ってもらうと言えば、大人らしい告白だろう。
だがそれは、自分はユカが居ないと死んでしまう
だから離れないでいて欲しいという、わがままな子供心でもあった。

「苦しかったんですね。申し訳ありません」
「謝らなくていいよ、こうして帰って来てくれたんだから」
椅子から立ち上がった健一郎はユカに近寄り、彼女をきつく抱きしめた。
そのまま唇を合わせ、長く濃厚なキスを交わし続ける。
ユカにとっては息苦しいほどの抱擁だったが、それは
彼がどれだけ寂しかったかを表している強さだった。

「ユカ・・・」
抱きついた健一郎の指が動き、セーラー服のリボンを外す。
メイド服とは違う構造に戸惑いながら、少しずつ彼女の服を脱がしていく。
健一郎に出会う前の、高校生のユカは終わった。
セーラー服を着ている意味は、もう無い。
彼の腕には、メイドとしてのユカだけが存在していた。

「あの、ご主人様・・・」
「なんだい?ユカ」
下着姿になった彼女が、ブラを外そうとする主人を制した。
「今日はたくさん動いたから、汗臭いです。だからシャワーを・・・」
「いや、このままでいい。今はユカの匂いをいっぱい欲しいんだ」
「やだそんな、あんっ!」
ソファーに倒されたユカの胸に、健一郎が顔をうずめ
甘酸っぱい香りを肺いっぱいに吸って、そこに彼女がいる事実を確かめる。
「ユカの、汗の匂いがする・・・」
「あん・・・だめ、そんなとこまで」
わきの下の汗臭い匂いまでも嗅がれたユカがいつも以上に顔を赤らめた。

自分のみっともない匂いまで愛してくれるのは恥ずかしかったが
どういう訳か嬉しくも思える気持ちにユカは戸惑っていた。
「愛してるよ、ユカ・・・」
何のひねりも無い、一番の気持ちを表す言葉を健一郎は臆面もなく口にした。
性行為で裸になるのは体だけではない。心も裸になってしまうものなのだ。

ブラを取り去り、パンティ一枚だけになったユカの全身へ
健一郎は念入りに口づけを浴びせた。少しくびれたわき腹、肉の薄い背中、
薄い布に包まれたお尻を降り、ふくらはぎから太ももへ唇をなぞり上げ
可愛らしいおヘソを丹念に愛した後、柔らかい胸の膨らみにキスをする。
「んっ・・・・・」

もう一度互いの唇を合わせ、健一郎は満足げな笑みをユカに見せた。
「ありがとう、もうシャワーに行ってもいいよ」
「は、はい。あの・・・・」
「?・・・どうしたんだ、ユカ」
「やっぱり、その・・・続けてもいいですよ」
恥ずかしそうにそう言ってユカは顔を背けた。
彼に愛されているうち、我慢ができなくなったのだろう。
「ははっ、いやらしいメイドだな」
「もう、ご主人様がそうさせたんじゃないですか」
ふくれた顔を赤らめてユカが文句を言った。

健一郎が彼女の熱くとろとろになった秘部へ
無事に帰ってきたごほうびの口づけをした。
「Hな匂いがするぞ」
「やん、もぉ・・・」
拒否の意思が見えない甘い嫌がり声を発するユカ。
汚いはずのところまで丹念に愛してもらえるのは、とても恥ずかしい行為だったが
それはユカにとって幸せな恥ずかしさだった。

溢れる蜜がソファーへこぼれないように舌でかき上げ
健一郎はユカのそこを丁寧に愛していった。
舌先によってつぼみを剥かれた花芯が優しく吸われるたび
ユカの太ももがヒクヒクと痙攣する。
「あんっ!ねぇご主人様ぁ、早くぅ」
「もう我慢できないのか?」
「だって・・・」

恥じらいながらも求めてしまうメイドの姿を楽しみながら
主人はズボンを降ろし、自らの分身を彼女の入り口へあてがった。
「あふぅっ、早くぅ!」
いやらしく腰をくねらせ、彼女がそれを奥へ求める。
火照った肉体が汗の香りを更に濃くし、強い性の匂いをあたりへ振り撒いていた。
「最後に聞いておくよ。今日一日、こういうことは何もなかったね?」
「はい、あの・・・襲われそうになったけど、大丈夫でした」
「・・・ならよかった」

ぐっと腰を落とし、主人のモノがメイドの肉奥へ埋没していく。
「ふぁっ!あっ、いいっ!」
誰にも奪われないようにしっかり彼女を抱く健一郎。
ユカの心を誰にも奪われないように、指を絡ませて手を握り合い
健一郎は深みへ埋没させたまま、肉棒を繰り回した。
まるで自分の匂いをすりつけて所有者を主張する動物のようである。
ユカも彼の激しい愛交に答え、腕も足も主人の体に絡ませて健一郎を求めた。

ソファーがギシギシときしみ、じゅぷじゅぷぬめる音が響く。
強い悦楽が、彼女を急激に高みへ押し上げていった。
「あっ!あっ!ああっイくっ!イきます!」
「ユカ、俺だけを見てくれ。ずっと俺だけのメイドでいてくれ!」
「はいっ、ご主人様ぁ!あぁっ!あああーーーーっ!」
ユカの背筋が仰け反り、汗ばんで強い芳香を発した全身を震わせる。
変わらぬ愛を主人へ誓ったユカは、ぶるぶると震えながら
そのまま幸せの頂点へと達していった。

          ◇

 次の日の夕方、桐ノ宮邸の裏庭にある焼却炉の前に、メイド服のユカと
健一郎の姿があった。この焼却炉は屋敷から出るゴミの
ほとんどを燃やす役目をしているが、秋の始まった最近は
庭から出る大量の落ち葉を処理するのが主な仕事になっている。

無骨な赤茶けたレンガの焼却炉が、錆びて重い鉄扉の口を開き
燃え出したばかりの落ち葉が炉の中で赤い炎と白い煙に巻かれていた。
「いいのか?」
「うん・・・・」
健一郎の問いにユカが寂しそうに答える。
「これ以上はそばにあっても・・・・辛いだけだから」
ユカの手には夏冬のセーラー服一式があった。彼女は扉の前で
ちらちら揺らめく炎をしばらく見つめ、ふいに制服を中へと投げ込んだ。

「さよなら」
燃えていくセーラー服を見送りながら、ユカは無意識のうちに
健一郎へすがりついていた。彼のシャツに細い指でぎゅっとしがみつく。

「泣いてもいいんだよ。俺が抱いててやるから」
我慢できなくなったユカの瞳に涙が溢れだした。
「う・・・・うわぁぁん!うわぁぁぁぁぁ!」

夕日が沈み、ユカが泣き止むまで、健一郎は彼女をずっと抱きしめていたのだった。

「さよなら」(完)

 前の章へ 本を閉じる あとがきへ