前の章へ 本を閉じる あとがきへ 


『素顔のメイド』 セイドメイドシリーズその4

byオゾン

エピローグ 「理解、そして救い」

「・・・様、ご主人様・・・」
肩を揺り動かされるのに気づき、俺は目を覚ました。
どうやら思い出に浸っているうちに、うとうとしてしまったようだ。

「もう晩ごはん近いですよ。」
顔を上げると、ユカが心配そうな表情でこちらを覗っていた。
「お昼寝が長いと、夜寝られなくなりますから。」
「ん!・・・・・・ふぅ。ああ、すまん。」
椅子に座ったまま、伸びを一つする。

「まぁ別に、寝られなくてもいいかもしれんがな。」
冗談半分の言葉を漏らし、俺は意味ありげなニヤニヤ笑いでユカをじっと見つめた。
「も、もうっ!」
言われた意味に気がついた彼女は、ほんのり赤くなると可愛くふくれてしまった。

「ユカ・・・」
「はい?」
すっかり冷めてしまったコーヒーをぐいと飲み干した後
俺はなんとなく浮かんだ疑問をユカにぶつけた。
「ユカは、俺のことを知りたいか?」
「はい、もっとご主人様を知りたいです。」
「そうか・・・」
「?」
突然の問いに不思議そうな顔をするユカ。

「なぁユカ。どうして人って、誰かの心を知りたがるんだろう?」
「え?えっと、その・・・」
「心を覗きたがるのは、いけない事なのかな?」
「ん〜〜〜〜」
哲学的な質問を受け、ユカは困った顔をして、しばらく悩んでいた。

「えっと・・・相手の事を好きだから知りたいんだと思います。
 だから、知りたがるのは、いけないことじゃないと思います。」
「ふむ、なるほど。」

「でも、その、なんていうか・・・知りたがるだけじゃ駄目で
 知ってから分かってあげなくちゃいけないと思います。」
「分かって?」

「はい、その人のことを分かってあげて、優しくしたり、許したり
 認めてあげたり、もちろん駄目な時はちゃんと叱ってあげなくちゃ
 いけなくて、だから・・・だから・・・・・」
「・・・・・」
「ん〜・・・申し訳ありません、これ以上うまく言えません。」
 彼女はそこまで答えると茶目っ気そうにぺろっと舌を出した。
多分、説明しているうちに、何を言っているのか
自分でも判らなくなってしまったのだろう。
だが、ユカが何を言いたかったのか、俺には何となく理解できたような気がした。

 相手が何を思っているのか、何を考えているのかを知るのは
まだ始まりの部分でしかないのだ。問題なのはその後、相手を知った自分が
何をしてやれるか?なのである。そして、深い関わり合いができてこそ
本当に相手が理解できる、という事なのだろう。

「いや、もういい。良く分かった。」
「ふふっ。ご主人様って私の心が分かるから、こんな時は便利ですね。」
「ああ、そうだな・・・・・ありがとう。」

感謝の言葉が自然にこぼれた。
心が少し、軽くなったような気がした。

「素顔のメイド」(完)

 前の章へ 本を閉じる あとがきへ