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『囚われる想い』 セイドメイドシリーズその7

byオゾン

エピローグ「心残りな旅立ち」

夜中の件については、ユカは何も知らないまま全てが終わった。

『アテーションプリーズ・・・』
空港のロビーに次の便の発着予定を告げるアナウンスが流れる。

観光客やビジネスマンで雑多に賑わうロビーで
健一郎と冴は互いの付き添いを連れ、向かい合って立っていた。

「向こうには、適当に言ってごまかしておくわね」
ミヅキが冴の親に『もう妊娠している』とついた嘘は
想像妊娠だったことにすれば、たぶん大丈夫だろう。
ただ、離婚の催促をさせないために、それを言うのは
もう少し後に延ばしておこうと冴は考えていた。

「それじゃ、また」
「ああ・・・またな」
静かに短いあいさつだけを交わし、二組は別々の方向へと歩き出す。

「・・・・・ごめんな」
彼女の後姿を見返りながら、ぽつりと健一郎が一言漏らした。
近いうちに別れなければいけない冴への詫びでもあり
離婚が伸びてしまった事に対するユカへの詫びでもあった。

「え?何か言いました?」
「・・・いや、なんでもない」
ユカの問い返しに、健一郎は苦笑いでごまかした。


「ほんっと酷い男でしたね。あんな嫌な奴、初めてでした」
飛行機の中、ビジネスクラスの客席に座ったミヅキは
彼が聞いてないのをいいことに、さんざんな悪態を繰り返していた。
「あんな男とは、早く別れたほうが正解ですよ」

「ふふ・・・そうね、そうかもね」
隣に腰掛けた冴は寂しそうな表情で自嘲気味に笑いながら
その意見に同意した。

確かに、健一郎は自分を駄目にする男である。
だが、それがわかっていても彼とは離れがたいのだ。
憎しみを覚えつつも虜になってしまう自分が情けないと思っている。
この気持ちは今のミヅキにはきっと判らないだろう、と冴は思った。

「あいつのことなんて、あたしが忘れさせてあげますから」
「ねぇ、それどういう意味で?」
彼女の口からうっかり出た言葉に、冴が意地悪そうに聞いた。

「あ・・・いえ、その・・・すいません」
回りを気にし、赤くなって謝るミヅキ。
「ううん、期待してるわよ・・・」
冴は、そう言って優しそうに微笑むと彼女の手をそっと握った。

彼女達の乗る飛行機は次の目的へと向かうため
徐々にスピードを速め、そして飛び立っていった。

「囚われる想い」(完)

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