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『わがままな愛情』 セイドメイドシリーズその5

byオゾン

3章 「別れの記憶」

 桐ノ宮邸へ繋がるアスファルトの道を、黒塗りの乗用車が昇っていた。
車ですれ違えるギリギリの細い林道は幾度もくねっており
所々枯葉くずに覆われている。通行する車がほとんどないせいで
道の脇から伸び放題に伸びた枝は、侵入者を追い払うかのように
車のわき腹を何度もたたき、小さな引っかき傷を遠慮無しにつけていた。

そして、その運転手付き高級車の後部座席には
久しぶりに会う健一郎を想い、心を高まらせる怜子の姿があった。
もうすぐ会える。ただそう思うだけで彼女の肉奥から
熱っぽい疼きが滲み溢れる。

生い茂る木々やその隙間から見える住宅街には目もくれず
怜子は、手持ち無沙汰に撫でまわしている赤い携帯電話を見つめ
ふふっと軽く笑った。彼と最後にしたのはいつだろう?
半年以上前のことが、もうはるか昔に思えてしまう。
怜子は、健一郎との忘れられない別れの時を思い返すと
甘く切ない過去に浸りはじめたのだった。

          ◇

 思えば、別れはあっけないものだった。
桐ノ宮本社の最上階。まるごと社長専用に使われているフロアに
備え付けられた直通エレベーターの前で、怜子は会議が終わるのを待っていた。
『んもぅ、まだかしら?・・・』
長く退屈な、それでいてじれったい待機時間が彼女はとても嫌いだった。
だが、返ってくるまで最上階から出るなという社長命令は
彼女にとって絶対である。唯一の出入り口である扉の前でこうして待つ他はない。

 高所恐怖症の怜子は普段、外への視界が広いこの来客用待合室に
長くいることは無かった。いつも足早に待合室を通り過ぎ
その奥の社長室か応接室で、社長の相手をしているのが日常である。
議題すら秘密にされた会議。いつもと違い、自分だけが参加を
拒否された会合に、怜子はなんとなく湧き起こる嫌な予感が消せず
高所による恐怖を押し殺しながら、そこで待っていたのだった。

イライラを抑えようとして彼女は銀縁のメガネを手にもてあそんだり
ゆるいウエーブのかかった黒髪を整えたりしながら
幾度もエレベーターの前を往復していた。
今、タバコが吸えたならかなりの量になっただろう。
だが、タバコの嫌いな健一郎から吸うなと命令されている怜子は
彼に気に入られるため、好きだったタバコも止めてしまっていた。

 その時不意にグン、というような重く静かな音がした。
はっと見上げるとエレベーターの階数表示が移動しているのが見える。
直通だから、動かしたのはまず社長に間違いない。
表示が最上階へ戻るまでの間、怜子はその点滅を見つめ続けていた。
そして、ポーンという軽やかな音と共に扉が開き
待ち焦がれていた健一郎が姿を表した。

「ご苦労さまです、社長。あの・・・会議はどうでした?」
健一郎は何も言わず社長室へ歩を進める。
「あの・・・・?」
だがその歩き方は、いつものようなキリリとしたものでなく
不良高校生を連想させるような、だらだらした歩き方だった。
いったい何があったのだろう?彼女の中でますます不安が高まっていく。
そして、皮張りのひじかけ椅子へどっかり腰を下ろした健一郎へ
怜子がまたおずおずと声をかけた。

「社長、どうかなさったんですか?」
「・・・・辞めろだとさ」
「え?」

 気力の無い、投げやりな喋り方で健一郎は会議の内容を話していった。
会議の中心は複数の重役達に郵送された一枚の写真だった。
そこには、秘書の怜子と肉体を重ねる健一郎の姿がはっきりと写っていたのである。
写真の裏には、新聞から切りぬかれた活字で
『マスコミにばら撒かれる前にこいつを辞めさせろ』
という請求文だけが貼られていた。

社長のスキャンダルは、会社の業績にかなり響く事件である。
身内か、それとも外部の人間か、犯人が見えないその請求は
金銭を要求しないだけに、何の足取りもつかめず
こちらからの連絡方法もない状態では従わざるを得なかった。

「そんな・・・」
「いつまでに、とも書いてなかったからな。今すぐ辞めてくれ、だとさ」
怜子の悪い予感は当たっていた。彼女を会議に加えなかったのは
いやらしく注がれる皆からの視線を避けるためだったのだろう。

「犯人?身内に決まってるじゃないか、あいつらめ・・・」
健一郎は机の上をガサガサやりながら会議でほぼ全員が退職に賛成したのと
撮影者が社長室の位置を確実に狙い撃ちしたことを愚痴っていた。
「ほら、ここにも証拠があったぞ」
消しゴム程度の小さな黒い物体を机から探し出し、怜子に見せる健一郎。
「どう見ても盗聴機だね」

今まで見つられなかった愚かさを自嘲し、苦笑した健一郎は
その小さな塊を怜子が炒れたばかりのコーヒーカップへポトリと落とす。
ピキッ!と何かが熱で割れたような音がした。

「まぁ、探せば幾らでも出てくるだろう・・・」
そう呟くと、彼は疲れたようなため息を一つついた。
「あの、本当にお辞めになるんですか?」
「そのつもりだ。俺もいいかげん、こんな所にうんざりしてたからな」

彼が辞めるとなれば、これまでのような二人の関係も無くなるのは間違いない。
「あの・・・社長。私も、私もあなたと一緒に辞めます!」
「だめだ、お前はここに残るんだ」
「どうして!?」
自分でも驚くほどの大声で怜子は抗議した。
「俺が全責任をとる、会議でそう言ったんだ」

怜子ほどの優秀な人材はなかなか他におらず、会社を思えば確かにそれは
賢明な判断だろう。それが証拠に他の重役達はその時何も反論しなかった。
だが、それは彼女の気持ちを考えていない選択でもあるのだ。

「お前はここに残れ。最後の命令だ」
「でも!」
「命令だ!」
しばしの間が空く。絶対的な健一郎の命令に怜子は返事を戸惑わせている。
「・・・はい、わかりました」
そして、押し殺した声でやっと怜子が返事をした。
「ふっ・・・・・いい子だ」
どこか寂しそうに笑う健一郎。

「あの、健一郎様。私からも最後のお願いがあります」
「何だ?」
「最後にもう一度、あたしを抱いてください」
「・・・いいのか?たぶん聞かれてるぞ」
盗聴機がまだあちこちにある可能性を考えるとそれは間違いないだろう。
だが、彼女にとって健一郎との交わりを許されているのはここだけである。
「かまいません」
静かな決意を込め、怜子は言葉を返した。

          ◇

 いつもと同じ明るい応接室で、社長と秘書の最後の交わりが始まる。
「んあっ!ああっ!」
大きな乳房をはだけ、窓ガラスに押しつけられた怜子が
後ろから突き上げられる肉棒の刺激に仰け反った。
肩まで伸びた黒髪は頭を揺らす度に振り乱され、芳しい香りが健一郎の鼻をくすぐる。
「みんなお前を見てるぞ。また写真を撮っているかもしれんな」
「ああっ、ぃやぁっ」
健一郎を陥れる目的はすでに果たしているので、それはありえないのだが
もしかしたらという淫らな想像が怜子の羞恥心をかき立てた。

ガラスで冷やされたせいか、興奮によるものなのか、尖ってしまった乳首をつねり
健一郎は秘肉を貫く肉棒で怜子の奥を満たしていった。
より細やかにこね回し、時には荒々しく突き上げたかと思えば
ゆっくりした注挿に変化し、彼女の肉欲を巧妙に焦らす。

「あんまり大声をあげるなよ、盗聴機で会社の連中が聞いているぞ」
「やぁうぅん!ああっ!」
「このビル全部にお前の声が流れていたらどうするんだ?」
「やぁぁっ!あっ!あっ!ひぃっ!」
ありえない妄想で怜子を責めるのも、彼がよく使う方法である。
健一郎は彼女の唇に指を入れ、塞げないようにしながら
後ろから激しく何度も突き上げ、強制的に声を上げさせ彼女を恥辱した。
口紅の淡い色が彼の指を汚し、一筋の唾液が口元をつたった。

「あふっ!やっ、そこはっ!」
「君は本当に優秀だな。秘書としても、こっちのほうでも」
ショーツの前に手を回し、健一郎がすっかり膨らんだ肉の芽を撫でさすると
これまで以上に怜子の太ももがびくびく震えた。
「怜子、会社に残ってくれるか?」
「はっはいっ!あぁ、健一郎様ぁ」
「いい子だな、怜子くんは・・・本当にいい子だ」

健一郎に誉められるのは、彼女にとって喜びだった。
絶対服従に値する主人の存在、それは怜子の望みなのだ。
だが、別れと言う最後の命令を守るのはとても悲しいことだった。
「健一郎様ぁ、あぁ、もっと誉めて下さい」
「ああ、誉めてやるよ。とってもいい子だ」

彼女の頭を撫でる代わり、最も感度の良い肉芽を優しく撫でる健一郎。
そんな彼の愛撫に答え、肺の奥から絞るような喘ぎ声をさせ
怜子は深く淫らに悶えていった。

「んっ!あっ!イくっ!お○んこがイきますっ!」
ブルブルと怜子の腰が震える。意思とは無関係にわななく腰は
彼女の絶頂が近づくにつれ、小刻みな震えを増していく。
「あっ!あっ!健一郎様ぁ!あたし、ああっ!」
「イってもいいぞ、まだ2、3回はできる時間はある」
怜子の高まりを察知した彼は、子宮へずんと届く荒い突きで肉奥を刺し
快楽により極限状態になっていた彼女の下半身をはじけさせてやった。

「あーーーーっ!あぁーーーーーっ!!」
手をついている厚いガラスがビリビリ震えそうなほどの淫吠で怜子が悶える。
全身の肉がきゅっと締まると、しばらく震えた後、ふわりと弛緩した。
まるで、無重力の空間へ放り出されるような浮遊感を味わいながら
彼女は極上の高みへ達してしまったのだった。

「・・・・・っはぁ、はぁ、はぁ」
「怜子、後のことは頼んだぞ」
「・・・・はい、わかりま・・・した、はぁっ」
とろんとした目元から涙が流れ、興奮に染まった頬を流れていく。
「うん・・・いい子だ」
健一郎は怜子の耳元へ、静かにそう囁くと
彼女が望む二度目の交合を始めたのだった。

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