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『こころ離れて・・・』 セイドメイドシリーズ

byオゾン

第3章 「離れないで」


 書斎部屋のカーペットの上、電動淫具を挿入されたメイドと
その彼女に覆いかぶさる主人の姿があった。

『ンンンゥゥゥンンンンブブゥゥヴヴヴゥゥヴヴィイイイ』
「くふっ!・・・・う・・・あ、ううっ・・・・ふぅぅ・・・・」
どうにかして我慢しようと工夫するうち
ユカは、だんだんと要領がつかめ始めたようだった。
足と腰の力を抜いて膣肉を緩めれば、思ったより快楽に耐えられそうなのを発見したのだ。

最初は振動を抑えるため、強く締めればいいかと思った彼女だが
実際はその逆で、力を抜いて緩めた方が肉壁をバイブに押しあてないので
それほど刺激を感じなくてすむらしい。

「ん・・・・ふうっ・・・・あっく・・・・・あ、はぁぁ・・・・」
両腕の自由を主人に奪われたまま、ふぅふぅとゆっくり腹で呼吸をし
内から迫る悦楽に彼女は必死に耐えていた。
頬は紅潮し、じっとりと汗ばんだ額に2、3本の髪の毛が貼りついている。
艶っぽく潤んだ瞳は、ぼんやりと何かを探すようにあたりへ視線をさ迷わせていた。

 望まない快楽が強制的に送り込まれるのは、ただの苦痛でしかない。
ユカは、TVで見た『大量の餌を無理矢理喉奥に流し込まれるフォアグラのガチョウ』
をなんとなく思い出し、今の自分の境遇に重ねて悲しくなった。

 最愛の主人に冷たくされると、心が愛情を欲し唇が寂しくなってしまう。
「ねぇ、ご主人様ぁ・・・・お願い。キス、してぇ・・・・」
「・・・・最後まで、我慢できたらな」
極めて冷酷に健一郎は言い放った。

「ううっ・・・なら。せめてお背中を・・・抱かせて下さぃ」
「・・・しょうがないな。いいぞ、俺も抑えるのは疲れた」
「ありがとぅ・・・・ございます」
 両手首の戒めを解かれたユカが、白い指先で彼のYシャツの背中をきゅっと握りしめた。
止めど無い快楽に、振り落とされまいとするかのように健一郎に抱きつき
強さを増し続け、理性の防波堤を砕き続ける高波に堪えていた。

 ふいに、手首を放した健一郎の腕がユカの脇腹を滑り降り、尻肉を鷲づかみにする。
両肉の狭間に中指を這わせ、奥までたどり着いた指先が
秘部に埋没する玩具の後ろを、じっとりとぬめった布ごしに見つけた。

「はしたないぞ。俺のじゃなくても、こんなになってるじゃないか。」
「うっく、申し訳・・・ありません」
己の肉欲を恨みつつ、眉をひそめて悲しそうにメイドが謝った。
締めつけによって抜けはじめた玩具を、健一郎は中指でぐっと押し込み、奥へと入れ返す。
「ぁクぅっ!」
行き止まりを突く小刻みな振動に、細く悲鳴をあげるユカ。
『だめっ!我慢・・・しなきゃ・・・・』
唇を噛み、声を押し殺そうとする姿が実に痛々しい。

そんなユカの姿を眺めながら、健一郎はまたポルノショップでの出来事を思い出していた。

 ところ狭しと店内に並べられた品々。黒く透ける下着、ピンク色のローション瓶
 男性器を型どったゴムの玩具。見るだけでそそられる刺激的なものから
 一見何に使うのか良く判らないものまで、多彩な性具がそこに溢れていた。

 「女なんかすぐに心変わりするからなぁ。一晩寝ればこっちのもんだ。
  ほれ課長、こいつなんか使えば、どんな女も俺に夢中ですぜ」
 「おいおい、そりゃお前じゃなくてオモチャに夢中になるんだろうが」
 太った課長と禿げた部長のやりとりの後、下品な笑いが狭い店じゅうに響く。

そんな光景が健一郎の脳裏に浮かび、どこか寂しそうに、不安そうに彼は顔を曇らせた。
『オモチャに夢中・・・・か。』

だが実際、目の前の少女は夢中になるどころか、必死にその快楽を拒否している。

『ヴゥィィィンンンンヴヴヴヴゥゥゥゥゥブブブブンンンン』
ユカの頭の脇にあるコントローラーが、主人の指の動きに合わせキチキチ音を立て
彼女に与えられる無機質な強制快楽が、じわじわ上昇していく様を示していた。
その、忌むべき玩具にちらりと視線を向けたユカは
強弱を調整するスライドが、3分の2を過ぎたところまできたのを確認し
『これなら、どうにか耐えられるかも・・・・』
と、ほんの少しだけ余裕を見い出す。

「へぇ、けっこう頑張るじゃないか。」
「ご主人様以外じゃ・・・イきませんから・・・」
汗ばんだ顔をこわばらせ、自分に言い聞かせるように、決意ある瞳でユカがつぶやいた。
もう少しだ。たぶん目一杯ボリュームを上げても耐えきれば、ご主人様はきっと許してくれる。
そう思う事で、彼女は淫楽の高波でぐらつきかけた心を押さえようとしていた。

「そうか。じゃ、次にいくぞ。」
その決心をあざけるように、健一郎はもう一つのスイッチを入れる。
『ウィィンンヴィィンンンブゥゥウィンウィンウィンヴィィンヴィィン』
「え?あ?あうぅっ!!あ・・・何?はぅぅっ!!・・・・んっ!何これぇ!?」
膣奥を凌辱する回転運動が始まる。主人が腰を回し、肉棒が奥をえぐる時のものに似た快楽。
それが今、ユカの子宮口を襲っていた。この動きにユカはとても弱いのだ。

回転を抑えようと締めつければ、膣肉を振動に強く圧してしまい
バイブが肉壁全体をぶるぶると苛める。
振動を受けないように緩めれば、動きを開放された先端が思うがままに蹂躪を始め
膣奥をぐりぐりと凌辱するのである。

「くふぅ!あっ・・・はぁっ!・・・・あひぃ!いやぁっ!」
快楽の波が渦を巻き、巨大な潮流となってユカを襲った。
うず潮の流れに理性が飲まれていくような、どうすることもできない状態。
回転や振動の強弱を操り、健一郎はじりじりとユカの官能をかきたてていく。
 彼女の全身からどっと汗が吹き出し、甘酸っぱい少女の体臭と
淫靡な性臭の混じる香りが濃厚に溢れ出した。

 ユカが膣穴を締めようとしているのか、緩めようとしているのかは
その表情と唇で、健一郎には容易に判断できる。

締めつければ振動を強め、ひくひくする膣肉全体を。
緩めたのなら回転を増し、圧迫に弱い子宮口の奥を。
絶妙なタイミングでコントローラーを操り、主人は
彼女をたどり着いてはいけない絶頂に追いつめていく。

「ああっ!だめぇ・・・お願い、許してぇ・・・」
「駄目だ、我慢するんだ。イったら駄目だぞ。」
 刻々と近づいてくるオルガスムスに合わせ、ユカの心は崩壊寸前になっていた。
幾度も『ここまで我慢したんだから、ご主人様は許してくれる』と思い込もうとしても
耳元で囁く健一郎の言葉が、彼女の甘い考えを打ち消していく。
 いっそ全てを投げ捨てて、この快楽に、獣欲に墜ちてしまいたくもなったが
最後の良心、主人への思いがかろうじてそれを許さなかった。

「嘘ですよね?・・・ふぅぅんっ!・・・だっ、抱いてやらないなんて、嘘ですよね?」
「だとしたら?嘘だとしても、俺を裏切ってイくことに変わりはないんだぞ」
「ああっ!やあぁ!お願い、とめてぇ!あたしご主人様を裏切りたくないのぉ!」
「イっちゃ駄目だぞ。誰のでもイくようなユカなんか、嫌いだぞ。」
「だっだめぇ!いやぁー!!止めて!とめてぇ〜!」
「イくんじゃないぞ、嫌いになるぞ。もう抱いてなんかやらないぞ。」
逃げ道はどこにもなかった。淫楽の渦に飲まれた彼女のゆく先は
ただただ絶望のみの待つ頂点へと、強制的に押し上げられるしかない。

「んん!ご主人さまぁ・・・もっ、申し訳ありません!あっ!あたしもぉっ!」
弱々しげな瞳からぽろりと流れた涙が、カーペットにぽつりとしみをつくる。

『ヴィン!ヴィン!ヴィン!ヴヴヴヴヴ!ヴィイィイ!』
 彼女の限界を悟り、健一郎はバイブの回転と振動、両方を一気に強めた。
最後の崩壊。残酷な主人の背中に回した腕をきゅうっと締めつけ
ユカは最後のオルガスムスを叫ぶ。
「あはぁーーーーーっ!イくぅーーーーー!あぁっ!ああぁっーーーーーーーー!」
 最後のほとばしりをぎりぎりまで我慢し、溜め込んでいたぶん
強烈な絶頂感の電撃が、バイブを中心に彼女の全身に襲いかかった。
ぐっしょり濡れた狭間からぷしゅぅっと愛蜜をほとばしらせ
腕を、背中を、太股を、全ての筋肉を小刻みに震わせ、性快楽の稲妻を四肢に受ける。
「うあぁーーーーーっ!ああぁーーーーっ!はぁぁん!あぁーーーーーーーーーーーっ!!」
その長く激しい絶頂感が終わるまで、健一郎は彼女のイき続ける姿を
無表情のままじっと見つめていたのだった。


「ぁ・・・・・はぁ・・・・ふぅ、はぁ、はぁっ・・・・」
彼女の中から少しずつ波が引いていく。嵐の後の夜のように、しだいに痙攣がおさまっていく。
『ヴィンウィンヴィンィンィンィィィィ・・・・・・・・カチッ』
腕の中のメイドが完全にイききったのを確認し、健一郎はようやくバイブを止めた。
尻にあてがっていた手で、彼女の下半身に入っていたそれをじゅぷっと引きぬく。
「んっ・・・・・ぁふ・・・」
つつ、と秘部から糸が引くのを見とどけた彼は、役目を終えた玩具をテーブルの上に転がした。

果てた後、ようやく我に帰ったユカは恐るおそる瞼を開いた。
無言の主人と視線を合わせるユカ。何の表情も無い主人の顔。
いっそ、罵倒してくれた方がまだましだと彼女は思う。

「あ・・・・ううっ、申し訳・・・申し訳ありません。ううっ・・・・」
自分自身が許せなかった。イってしまった後悔と、自分への情けなさに涙が止まらなかった。
「お願いです・・・ひっく、あたしのこと、嫌いにならないで・・・下さい。」
ユカは幾度もいくども「申し訳ありません」と謝り
「嫌いにならないで」と泣きながら哀願を続けた。

「お願いします。もぅ、抱いてくれなくてもいいです。でも、でも・・・
 せめて、ご主人様のお側に・・・・うっく、お側に置いて下さい・・・」
彼女の主人は、無言のままだった。無表情のまま、ただずっと黙り続けていた。

 その時。ふいに健一郎が両手を絨毯につけ、彼女からすっと体を離した。
離別の恐怖。最愛の主人に、このまま二度と触れられないように思えたメイドが
小さく「嫌ぁ!」と叫び、健一郎が離れていくのを恐れる。
彼の背中に回したままの腕で、ぎゅっと抱きつくユカ。
「離れないで!お願い!離れないでぇ!」
まるで小犬のように弱々しく彼女は震え続けていた。

 健一郎は、起き上がる為に立てた右腕を、床から離し
そして、左手で上半身を支えたまま、自分につかまっているメイドの頭を優しく撫でてやった。
「ご主人・・・・様?」

抱き寄せて顔を合わせた彼女に、そっと触れるだけの口づけを与えた後、主人はやっと口を開く。
「ごめんな」
「え?・・・」
「不安だったんだ。お前が、俺に何を求めてるのか、知りたかった。
 それに、気持ちが変わってないのを確かめたかったんだ。すまない。」

「・・・・寂しかったんですね」
ユカは、ようやく主人がどんな想いでこんなことをしたのか、わかったような気がした。

「ご主人様は顔色で心がわかるぶん、離れて顔が見えないのが、とても不安だったんですね。」

 今まで知らなかった愛。だが、その素晴らしさを知るからには
同時に、愛の無い寂しさも知らなければいけない。
 愛する者と遠く離れている現実に、健一郎は耐えられず
彼女が心変わりをしていないか、とても不安だったのだろう。
快楽に墜ちず、最後まで快楽よりも主人を求めたユカの姿を見て、健一郎はやっと安心できたのだ。

「でも・・・・ひどいです。信じてなかったんですか?・・・・
 あたしが、あたしが、ご主人様以外の人を好きになるわけ無いじゃないですかぁ!・・・ううっ」

 主の胸板を小さな握りこぶしでたたきながら、ユカがまた泣き崩れた。
「そうだな、悪かった・・・すまない。」
きゃしゃな少女のその体を健一郎はぎゅっと抱きしめた。
疑念を持ってしまった自分を恥じ、愛おしくて愛おしくて
ただその想いで両腕に力を込める。自然と彼の両目から涙が滲み出す。
「もう、二度と疑ったりしない。だから、許してくれ・・・すまない。」

「あたし・・・絶対他の人を好きになったりしません。ぐすっ・・・
 だから、ご主人様は・・・あたしを信じて下さい。」
「・・・わかった。誓うよ、ユカ」
もう一度、今度は深く舌の絡み合うキスをする。それは、互いを求めむさぼるような
粘っこく、じっとりした口淫だった。

 口づけを離した主人が、ようやくメイドに笑顔を見せる。
疑いの呪縛から解かれ、信じる事を知った優しい微笑みは
五日前の健一郎より、はるかに充実していた。
「じゃ、ごほうびだ。さっきユカが言った通りのをしてあげるよ。」
「はい・・・」
「ふふっ。五日ぶんだから、きっと凄く濃いのが出るぞ」
「やだ、ご主人様ったらぁ・・・」
その言葉に、嬉しそうにメイドが頬を赤らめた。

 お姫様だっこでユカを抱きあげた健一郎は、ゆっくりと寝室へと歩き始める。
愛しあう二人の夜は、信じあう二人の人生は、まだこれからだった。


 『こころ離れて・・・』 (完)

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