弥生

前略、呑べえ、喰べえ様。
すべての草木が芽を出して、
「いや生う」
というところから、この月を弥生というとか。
朝夕にまだ寒さは残っていても、桃に、菜の花に水むるむ川辺の柳に、
春の明るさが確かに感じられる季節。
冬ごもりも終わりを告げ、そろそろアメリカザリガニのまっ赤ちんも動き出す頃かな。
去年の夏頃は、夜明けまで飲むと、
(ただ飲んでいるのではなく、店の行末、魚の将来、酒と肴の相性などを激論しているのです。)
男の狩猟本能というものがムクムク湧いてきて、朝、まだ明けきらない近場の清流?に。
職人宮ちんをひき連れ、まっ赤ちん捕りに興じていましたっけ。
ハハハ。楽しいんだこれが。
さて、初もの、新もの、初・新づくしですこの時期は。
筍、新ごぼう、山菜類、初鰹、新若布、新蕗、出会いの炊き合わせは木の芽の香りで美味しいものですね。
近頃一番搾りのCMの影響でしょうか、「とろのあぶり焼」が、ずいぶん出ましたが、
今度は、蛤と栄螺の味噌焼きですか。
春は貝の旨い季節です。
殻付の生とり貝もこの時期ならではの美味しさです。
一年中ゆでた冷凍ものがありますが、ゴムのような食感で、とても食べられたものではありません。
生のものは磯の香りと、甘いシャキシャキとした食感を持っています。
旬の貝は、魚と違って脂肪の代わりに筋肉(たんぱく質)がついて
身も厚く丸丸太って甘味と旨味が増してきます。
甘味をもつアミノ酸であるベタイン・グリシン・アラニンなどが多くなるからです。
一方、旨味は、主にコハク酸で、日本酒の旨味と同じ旨味なのです。
赤貝や栄螺を食べると後口にかすかなに渋みを感じたことがある人が多いと思いますが、
それはコハク酸の旨味なのです。
もう私が何を言いたいか、お分かりですよね。
旨い春の貝に、旨い新酒(生)、これはもう出会うべきして出会ったベストパートナーです。
又、さっと、あぶり焼で、燗酒、たまりませんよ。
もう先ほどから口の中が酒と貝なので続きは又、来月。
ウヒヒ…。旨酒旨貝貝。
(海山便りNo.22より)


写真は3月25日の宴会メニュー
3月25日、木陰浮月粋人盃。本日は低温熟成酒がメイン。
天豆、新筍、菜の花は、幾種もの酒に違いを引き立てる。
小鯛の粕の香り、海老真薯・蕗のとうなど熟成香に負けない肴が続く。
とり貝最高。新酒とも合うかな?
初鰹手こね寿司でちょっと落ち着く。
蛤の吸い物せさらに落ち着き、次の酒へとまた手が伸びる。


如月 睦月

平成9年

師走 霜月 神無月
長月 葉月 文月
水無月 皐月 卯月
弥生 如月から弥生へ

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